発症したら心不全は治らない
階段を下りるように身体機能は落ちる

高齢者の病気というと、40~50代にとってはまた心不全が遠ざかり、予防への意識が薄れるように感じてしまいます。

小室 40代で心筋梗塞になり心不全になることもありますが、40代での心不全発症数は10万人当たり20~30人に対し、65歳を超えると100人、200人と急増します。一方、がんのピークは60~70歳頃で、心不全はそれより10歳遅い。つまり、65歳以下では死因のトップはがんですが、それ以降では循環器病で亡くなる人が多くなります。

これまで日本人は、世界で最も心筋梗塞になることが少ないと言われてきました。ところが近年、糖尿病や肥満が増えたこともあり、若くして心筋梗塞になる人が増加しています。前述したように心筋梗塞から心不全を発症する人が多いので、やはり40~50代から正しい生活習慣を身につけなければ、50代で心不全を発症して苦しくなり普通の生活が送れなくなります。

人生100年時代と言われる中で、60歳、65歳で定年になったとしても、亡くなるまでに30年余の人生があります。老後を楽しく、健康で生きる。そこを規定するのは心不全です。それでなくても歳を取れば、誰でも心臓の機能が弱り心不全予備軍になってしまうので、40~50代から生活習慣を改善し、心臓病のリスクである高血圧や脂質異常症、心筋梗塞にならないよう、さらに心不全にならないように予防することが大事なのです。

心不全がイメージしにくいことも、予防や啓発が進まない要因の一つになっていると感じますが、日本循環器学会では昨年、一般向けに心不全の定義を発表されました。

小室 心不全はわかりにくいため、医学的には多少の正確性は犠牲にしても、「心臓が悪いために息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなって死に至る」と、一般向けに定義できたことは良かったと思います。

また、今春には急性心不全・慢性心不全の診療ガイドラインも一本化され、心不全のステージについても盛り込まれました。ステージ図によって、心不全を発症するステージや症状の進行がわかりやすくなりました。

小室 多くの人が誤解していますが、心不全で入院し治療を受けて退院すると、治ったと思いがちです。ところが一度心不全になると、入院前よりも身体機能は下がり(※1)元のレベルには戻りません。そこからは階段を降りるしかありませんが、予防によってその降りる速度を緩やかにすることは可能です。

がんは発症してもある程度は普通の生活ができます。一方で心不全は動くと息苦しいので日常生活がかなり制限された状態が続き、最後は息苦しさが解消することなく亡くなるため、苦しさでいえばより心不全の方が辛いかもしれません。

心不全は胃がんと予後が同じですが、何回も予防ができるし悪化も防げます。そのことをよく理解してもらい、今こそ予防に努めて欲しいと思います。

※1 図1「心不全とそのリスクの進展ステージ」より
2018年11月14日、日本循環器学会HP閲覧、最新情報はこちらをご確認下さい

第1回終わり(第2回に続く)