心不全にさせない、心不全を悪化させない

2025年といえば「心不全パンデミック」が心配されています。

中井 パンデミックというと、普通ならインフルエンザやエボラ出血熱などの感染症を思い浮かべるはずで、それが心不全とどう結びつくのかが、今ひとつわかりにくいかもしれません。感染症の問題は、患者数そのものが一気に増えることです。その意味では、2025年になったからといって、心不全患者が爆発的に増えることはないと思います。

しかし、心不全の問題は、一人の患者さんが何度も入退院を繰り返す点にあります。一人あたりの入退院回数が仮に3回だとすれば、病院に求められる対応は患者さんが3人に増えるのと同じ結果になります。つまり心不全患者が増えれば、患者数×入退院数の対応が必要となり、恐らく医療現場は大混乱に陥るでしょう。

医療経済にも甚大な影響を与えそうです。

中井 そうならないために心不全の発症を抑えること、つまりステージBからの介入が必要です。そしてステージBの患者さんを見つけるには、開業医の先生方の力が欠かせません。

とはいえ、ステージBの診断は簡単ではない。繰り返しになりますが、高血圧や糖尿病の患者さんに対する心エコー検査をお勧めします。健康診断では採血するのだから、例えば50歳以上に限ってでも構わないので、ぜひBNP検査も組み込んで欲しいと思います。そこで異常が見つかれば、心電図を撮ってみる。すると心不全を発症していないステージBでも、CRT適応の患者さんが見つかる可能性はあります。心電図で連動障害が出ている場合は、憎悪因子をなくす意味でもCRTが選択肢となります。

心電図の異常は、説得材料になりますね。

中井 心臓の伝導障害は、薬物療法では治せません。心臓の動きのタイミングがズレていると、当然効率が悪くなる。それでも心臓は1分間に平均70回、1日ならざっと10万回も拍動しています。これが毎日繰り返されると、どれだけ心臓に負担をかけることになるか。

こうした話をすると患者さんも納得されます。すぐにCRTを入れようとはならなくても、体を動かすのが少し辛くなったりしたときに、患者さんの頭の中にCRTが選択肢として浮かべば良いと思います。

そもそも日本人は我慢強い人が多く、「少しくらいしんどくても我慢しなければ」と思いがちです。しかし、こと心臓に関しては、我慢が決して良くないことをぜひ知っていただきたい。50代半ばから60歳くらいの人は、一度自分の体の調子と真剣に向き合ってみてください。

 

幅広く知られるべきCRTの力

ステージCからの悪化を防ぐだけでなく、ステージBでとどめる手段としてもCRTは、もっと知られるべきですね。

中井 ただ一つ問題なのは、CRTに関しては施設認定の要件があり、心臓外科を備えている必要があります。カテーテルアブレーションに関しては、そうした要件がないことを踏まえるなら、より安全なCRTになぜそうした要件があるのかが、正直なところよくわかりません。

CRTは決してリスクの高い治療ではありません。その上、技術革新が進んでおり、最新のCRTならMRIにも対応しているタイプが出たり、電池寿命もかなり伸びて約8年は電池交換不要と、患者さんの負担はかなり軽減されています。

ただ、ステージB、あるいはステージCの初期の患者さんに対してCRTを入れた場合、我々からすれば、その結果として患者さんが心不全にならなかったとすれば、これは非常に喜ばしい成果と受け止められます。しかし、患者さんにとっては、CRTを入れた自分と入れなかった10年後の自分を比べることができない。だから適応といわれても、ためらう気持ちはよくわかります。

治療を受けた患者さんの実態を知ってもらうこと大切ですね。

中井 最も効果的なのは、CRT装着前と装着後のレントゲンをお見せることでしょう。百聞は一見にしかずというように、目で見て明らかな成果がわかります。心不全は今やがんに次ぐ死因となっているので、様々な方法で実態をもっと知ってもらう必要があります。

実際に心不全になってしまうと、何度も入退院を繰り返すのでお金もかかります。かといってがん保険のような制度はないので、患者さんの経済的な負担も大きくなります。以前は心不全治療は薬で治すと考える先生方も多かったのですが、薬では治らないケースがあること、CRTによって劇的に改善する場合も多いことなどが少しずつ知られるようになってきました。これからも、この流れが大きく広がるよう努めていきたいと思います。

第2回終わり(連載2回)