高齢者の受診では心不全を疑え
診断の鍵は「変化」

本人次第で心不全が予防できることと同時に、いかに早く心不全に気づくかも重要だと思います。息苦しさやむくみなどがあった場合、私たちはまず地域のかかりつけ医を受診します。このとき、かかりつけ医が注意するポイントとは何でしょうか。

小室 日常的に多くの高齢者を診ているかかりつけ医の先生方にお願いしたいのは、息苦しさを訴えてきた場合、特に運動時や階段・坂道を上るときに息苦しいという患者さんに対しては、まず心不全を疑って聴診していただくことです。典型的な心不全であれば、II音の後にIII音が聞こえ、僧帽弁閉鎖不全の汎収縮期雑音がします。駆出率の保たれた患者さんでは、通常血圧が高く、I音の前にIV音が聞こえます。

次に心電図を撮っていただき、不整脈や心肥大、心筋梗塞の有無に注意してください。また、胸部レントゲンでは、心拡大や肺水腫の有無をみてください。さらに血液検査が有用です。BNP(脳性ナトリウム利尿ペプチド)、もしくはNP-proBNP(N末端プロ脳性ナトリウム利尿ペプチド)を測れば、心不全かどうかほぼ診断できます。

BNP、NP-proBNPは、一般的なクリニックでもできる検査ですか。

小室 はい。BNPは採血後の検体が不安定で、血漿で測らなければならないため少し手間がかかりますが、NP-proBNPは血清での検査が可能な上、安定しているのでかかりつけ医の先生方がよく使われています。どちらも心臓が悪いかどうかがわかる非常に良いバイオマーカーで、息苦しい、むくむといった心不全の症状がある場合、心不全を疑って測定してください。

しかし、高齢者が息苦しいというと、「年だからしょうがない」と医師から言われてしまったという話もよく聞きます。

小室 心不全の診断は難しいことがあります。ヒントは先月まではできていたこと、例えば80歳の人が3階まで上ったり、坂道を上れていたのに急にできなくなったのなら、心不全の可能性があります。それが長年の間に上れなくなったのであれば、確かに年齢のせいもあるでしょうが、いくら80歳でも突然年を取ることはありません。つまり、ポイントは「変化」です。

もう一つ、就寝中にトイレに起きることは高齢者によくあることですが、今まで1回だったところ、2回、3回と起きるようになったら心不全を疑ってください。また排尿の量も問題で、あまり尿が出ない場合は眠りが浅くてトイレに行くだけかもしれませんが、トイレに行くたびにたくさんの尿が出る場合は心不全になっている可能性があります。食事をしたり、寝ていると息苦しくなるというのは、重症心不全の可能性があります。高齢者の場合、食欲がなくなる、元気がなくなるといった不定な症状も心不全が原因になっていることもあるので、念のためBNPかNP-proBNPの測定をお勧めします。

そして、さらに大事なのは心不全で退院した後です。心不全は入退院を繰り返すため、二度と入院しないためには退院後の日常生活が大切で、できれば心臓リハビリをして欲しいと思います。

心臓のリハビリとは、具体的にどのようなことを行うのですか。

小室 リハビリというと脳卒中や整形外科的なイメージがあるかもしれませんが、心臓のリハビリも大変重要です。心不全で入院していると、心肺機能が落ちると共に筋肉も弱ってしまうため、徐々に運動を始めて体を慣らし、骨格筋を含めて心肺機能を高めていくことが必要です。

また、ここで重要なのは、単なる運動だけでなく、水分や塩分、体重の管理から薬の飲み忘れ、生活習慣の改善などの教育も広い意味での心臓リハビリであり、それを地域のかかりつけ医の先生方や看護師、理学療法士の方にお願いしたいと思います。2~3カ月に一度の病院の外来では、心不全患者の日常生活の全てをチェックすることはできません。やはり普段から患者さんを診てよく知っているかかりつけ医の先生方が、退院後をしっかりと診ていただくことが入退院を繰り返さないことにつながります。

今後、心不全パンデミックが懸念される中で、ますます訪問診療の重要性は高まっていきます。暴飲暴食をしていないか、体重に変化はないか、塩分を摂り過ぎていないか、薬は飲み忘れていないかといった日常生活の管理ができるのは、かかりつけ医をはじめ、看護師や理学療法士の方です。そのためには医師ではない看護師や理学療法士にも心不全の症状やその進み方、退院後の管理などについてより知識を深めてもらい、一人ひとりの患者さんをよくみていただきたいと思います。

心不全患者の生活管理、ケアという意味では、心不全認定看護師という制度もありますね。

小室 制度はあるものの、資格取得者はあまり増えていません。そこで参考になるのは糖尿病学会の取り組みで、糖尿病の管理教育は療養指導士を活用することで非常にうまくいっています。学会が療養指導士制度をつくり、認定講演会には多くの希望者が集まります。

同様に、日本循環器学会でもまず心不全療養指導士から始め、いずれ生活習慣病療養指導士などに広げていきたいと考えています。現在、学会の教育研修委員会等で心不全療養指導士について検討してもらっています。