目で見て明らかにわかるCRTの効果

初めに心不全治療におけるCRTの位置づけと効果を教えてください。

中井 心不全治療の基本は、薬物治療です。ただし、中には薬物療法のみではコントロールの難しい心不全もあります。そのような場合に、強力な助っ人となり得るのがCRT(cardiac resynchronization therapy:心臓再同期療法)です。

心機能が低下すると心臓は拡大し、重症化するにつれて伝導障害を伴うようになってきます。その結果、右室と左室の間で収縮のズレが起こったり、左室内で中隔と側壁の収縮タイミングのズレが起こったりします。こうした同期不全が起こると、心臓は血液を効率よく全身に送り出せなくなります。

そこで、同期不全となった心臓の収縮タイミングを揃える治療がCRTです。具体的には、右心室と左心室にリード線を挿入し、左右の心室に同時に電気を流すことで、心臓の動きを同期させます。これにより心収縮が効率的に行われ、血液が全身に巡るようになります。例えばビーチボールの空気を抜くときに、ボールを両手で挟んで左右から圧迫すると空気が効率よく抜けますね。あれと同じ要領です。

CRTにより弱っていた心臓のポンプ機能が復活するわけですね。

中井 その通りです。レントゲンを撮ってみると、CRTの効果は一目瞭然で、拡大していた心臓が驚くほど小さくなっているのがわかります。CRTが日本で行われるようになったのは2004年で、ちょうど当時60歳だった患者さんが私のところに来られました。この患者さんは当初、重症な心不全で苦しんでいて、定年まであとわずかなのにもう働けないと仰っていたのです。ところがCRTを入れると見違えるように元気になり、定年まで勤め上げたばかりか、74歳になる今でもとても活発に過ごされています。

他にも極端な例を紹介すれば、手術室から戻って来た瞬間「すごく楽になった」という人もいます。さすがに、それはちょっと早すぎでしょうと思いますが、ご本人は本当に楽になったといわれる。確かに、その患者さんは心不全で入退院を繰り返していたのに、CRTを入れてから16カ月が過ぎた現在に至るまで、一度も再入院されていません。手術が終わった瞬間から体の感じが変わったという人は、他にも多数います。

ノンレスポンダーをどう考えるか

ところが増えていた症例数が、このところ伸び悩んでいると聞きました。

中井 右肩上がりで増えていた流れが、2012年頃に変わりました。そのきっかけとなったのが、この年に出された欧州心臓学会(ESC)による急性/慢性心不全の診断・治療ガイドライン改訂版です。このときヨーロッパではCRT適応に対する考え方が、少し変わったのです。要するに、より効く人にだけ入れようという考え方です。

なぜなら、CRTは全ての心不全患者に効果があるわけではありません。CRTを入れても効かない患者さんをノンレスポンダーと呼びますが、このようなノンレスポンダーの患者さんが多くなってしまうのはどうなのかということが問題視力されてきたのです。ただし、ノンレスポンダーといっても様々なケースがあるので、一概に問題とは言えないと私は考えています。

ESCは2016年にも改定されていますね。

中井 この改訂は、CRTに対してさらに厳しいガイドラインとなりました。具体的には、QRS幅130msec未満の患者さんに対する適用が禁忌とされています。ヨーロッパではCRTについて効果の得られる患者さんと、そうではない患者さんを明確に区別するようになりました。そして効果が期待できないと思われる患者さんに対しては、CRTはやらない。保険適用とも絡む話で、確実に効果が出る人だけを選択する考え方です。

こうしたヨーロッパの考え方が、日本にも影響を与えているようです。そのため、日本のガイドラインでは適応にもかかわらず、CRTを入れて良いのかという相談が私のところにも寄せられています。ヨーロッパのガイドラインでは推奨されないレベルなので、どうするのか判断に悩まれる場合もあるようです。

ノンレスポンダーは悩ましい問題ですね。

中井 ただ少し考えていただきたいのが、ノンレスポンダーの実態です。確かにCRTを入れたものの、期待されたほどの改善効果が出ないケースはあります。それでも注目したいのが、成果の出ていない患者さんの予後です。際立った改善はなくとも、心不全が悪化していない場合があるのも事実です。

心不全とは、一度発症すると時間が経つと共に確実に悪化していき、やがては死に至る病気です。その危険性を広く知ってもらうために、昨年12月に学会が一般向けの定義として『心不全とは、心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気です』と発表しました。そうであるならばノンレスポンダーだったとしても、CRTによって「だんだん悪くなること」を防げるなら、そして「生命を縮めること」を阻止できたなら、それは成功といって良いのではないでしょうか。