CRTを積極的に活用する

心不全の治療法としてCRT(Cardiac Resynchronization Theraphy:心臓再同期療法)」が、最近注目されています。これは、どういった治療法なのでしょうか。

猪又 心筋細胞は、その一つひとつが勝手に伸び縮みできるという特性を持っています。ただし、それぞれがバラバラに動いたのでは、心臓全体が一個のポンプとしての機能を果たせません。そこで、洞結節という命令を出す親分が一定のリズムで自動的に興奮し、その命令としての電気刺激が一種の電線を通じて心臓全体に伝えられ、一個のポンプとして動いているわけです。心不全を起こした心臓では、この電気の伝わりが部分的に悪かったり電線が断線したりすることが少なくありません。その結果、一様に電気が伝わらない場所が生ずることで心臓のポンプ機能が調和を失い(同期不全)、心臓全体としての動きをさらに低下させます。このような調和の取れていない心臓の動きに対して、人工的な電気刺激を与えることで調和を図り、ポンプ機能の効率を高める植込型の機械がCRTです。

CRTは、どのような患者が対象となりますか。

猪又 CRTの対象は、心不全患者さんの全てではなく、同期不全を来した収縮不全の患者さんに限られます。CRTは人工心臓ではなく、あくまで患者さん自身の心筋組織を用いた治療法なので、心筋そのものが傷みすぎていると十分な効果を発揮できません。当初CRTはこのようなステージDを中心に、最後の砦的に用いられることが通例でした。しかし、最近では、心筋が傷みすぎていないステージC、ときにはステージBがむしろよい適用と考えられるようになってきてきました。興味深いのは、CRTがポンプ機能の効率を向上させるだけでなく、傷んでいる心筋自体を改善させ、心臓全体の土俵を良くさせるケースが少なくないことです。結果として、心不全による症状が目に見えて改善されるだけでなく、心臓そのものの基盤が良くなるため、予後の改善も期待できます。

CRTには心臓そのものを改善する効果もあるのですか。

猪又 明確な機序は十分に解明されてはいませんが、CRTが効いた症例では傷んで大きくなった心臓が小さくなり、悪くなった心臓の動きがよくなります。CRTの主な対象はステージCの心不全患者さんですが、2017年に改訂された『急性・慢性心不全診療ガイドライン』では、NYHAクラスⅡでも推奨クラスがⅡaとなる場合が設定されました。「かくれ心不全」に近い状況においても、先に進ませない前倒しの医療としての役割を担うようになったわけです。最終的にステージDに進ませないためにも、「早めのCRT」を常に意識しておくべきです。