日本メドトロニックは1975年に設立され、血栓による脳梗塞を治療する血栓回収デバイス、侵襲性の低いリードレスペースメーカ、血糖変動を患者自らが確認できるSAP(Sensor Augmented Pump:パーソナルCGM機能搭載インスリンポンプ)の開発など、診断から治療、患者のフォローアップまでカバーする製品を生み出している。同社が持つ技術と知識、医療従事者が作り出すデータや知見を結び、医療コストの削減に努めると同時に、患者により良い治療結果をもたらすことを目指す「Value-Based Healthcare(バリューベースド ヘルスケア)」という医療モデルの構築に注力している。

 連載3回の第1回は、心臓病領域への取り組み、診断機器の提供、デバイスを体内に植え込むことに対する欧米と日本との違い、またこれに関連して誤解されている情報をいかに正しく伝えていくのかなどについて、日本メドトロニック バイスプレジデント CRHF事業部長の芳賀 聡 氏にお話を伺った。

原因不明の失神や不整脈の診断に有効な
小指サイズの植込み型心臓モニタ

まず、御社の循環器領域における取り組みについて、教えてください。

芳賀 弊社は慢性期および急性期における幅広い治療に対応すべく、メドトロニックの他の国内関係会社と併せて14の事業分野を展開しています。弊社のビジネスは大きく、CVG(カーディアック アンド バスキュラー グループ)、RTG(リストラティブ セラピー グループ)、MITG(ミニマリー インベイシブ セラピー グループ)、DIB(ダイアビーティス)の4グループに分かれ、さらに各グループ内に複数の事業部を設けています。

私が率いているCVG内のCRHF(カーディアック・リズム・アンド・ハート・フェイリア)事業部では、不整脈と心不全の領域をカバーし、不整脈に対しては、脈が遅くなる徐脈を治療するペースメーカ、逆に脈が早くなり過ぎる致死性不整脈を治療するICD(植込み型除細動器)などを取り扱っています。

加えて、心房細動に対する治療において、風船で肺静脈周辺組織を冷凍する術式(経皮的カテーテル心筋冷凍焼灼術)に使用するカテーテルを扱うビジネスも、このCRHF事業部に属しています。

最近の製品でいうと、2016年9月から販売を開始した、小指ほどの大きさの植込み型心臓モニタ(Insertable Cardiac Monitor; 以下ICM)も提供しています。これは、原因不明の失神を有する患者さんの皮下に植え込み、不整脈を検知して診断に役立てる機器です。手技は低侵襲で、植込みが完了するまでの時間は15分程度です。365日24時間、最長3年間心臓の拍動をモニターし続け、データは遠隔でサーバーに飛ばすので、医師が患者さんの通院を要することなく心房細動などの不整脈イベントを診ることができます。

ICMは、治療ではなく診断を目的とした機器ですね。

芳賀 診断がつく場合は使われず、主として診断できない場合に使用します。例えば失神した後、それが脳に由来するものなのか、心臓が原因で起きたのかがわからない場合、ICMを植え込んで様子を見ます。前述した原因不明の失神が起こった患者さんの不整脈検出のほか、脳梗塞後の原因がわからない潜因性脳梗塞(※1)の患者さんの心房細動検出のために入れるケースも、保険適用となっています。

その後の治療方針を立てるためにも、正しく診断されることが必要ですね。

芳賀 今年5月に、塞栓源不明の脳塞栓症(ESUS)発生後の脳卒中再発予防において、抗凝固薬では従来の抗血小板薬を上回る有効性が示せなかったという論文が発表されました。これは、AF(心房細動)の診断前に抗凝固薬を投与すると、出血量が有意に多くなることが中止の理由でした。抗凝固薬によって脳梗塞の再発を防ぐことは、社会的に大きな意義はあるものの、医師にお話を伺うと、AFの確定診断の後、抗凝固薬に切り替えることが重要だと言われています。そこをICMであれば不整脈が本当にあったのかどうかが診断できます。

最長で3年のモニタリングができると言われましたが、なぜそこまで長期間のモニタリングが必要なのですか。

芳賀 潜因性脳梗塞の場合、3年間のモニタリングによって全体の3割ほどの患者さんにAFが検出されたスタディがありますが、AFは経年的に検出される傾向にあるので、より長期間モニタリングする必要があります。

他にも不整脈を見つける機器としてホルター心電図(※2)がありますが、小さくて取り外しが容易で、非侵襲的といった利点がある一方、胸にいくつかの電極を張り付けたまま、24時間から48時間を過ごすのは結構大変なことです。しかも、その48時間以内に不整脈が現れない患者さんもいます。他方、ICMは胸部皮下に入れてしまうので、そういった煩わしさもありません。

植込み型心臓モニタがこれほど小さく、高機能であることを初めて知りました。

芳賀 弊社製品の類似品としては、ICMの前世代に植込み型ループレコーダー(Implantable Loop Recorder; ILR)がありましたが、現行ICMの小指サイズに対して親指ほどの大きさがあり、とてもかさばるものでした。そこを現行ICMは皮膚に軽く傷を付け、そこにインサート(挿入)して適切に切開傷を閉じるだけです。

日本人は植え込むことに対して抵抗があるため、最後のインフォームドコンセントの段階で「やっぱり嫌です。やめます」と断る患者さんも相当数いらっしゃいます。それがICMに変わったことで、以前に比べると遥かに抵抗感は少なくなったと思います。

今後、心不全患者が増えることが懸念されていますが、同様にAF(心房細動)患者さんの増大も起きると言われています。AFが起きることによって、心原性脳塞栓症を発症する確率が上がり、社会的なコストも大きくなります。加えて、AFを持っている患者さんは心不全が悪化しやすいため、未然に防ぐという意味でも、このAFマネジメントは非常に重要になっていきます。

心房細動が心不全を悪化させることは、他社の企業インタビューでも伺いましたが、この点も、心不全啓発の課題の一つといえそうです。

芳賀 心不全が悪化する要因としてAFが作用していることは、多数の論文でも明らかにされています。AFに対していかに早期に介入するか、心不全にいかに早い段階で介入するか。この2つに取り組むことは、今後の心臓病治療において社会的な意義が大きいと共に、両者をマネージすることが私たちCRHF事業部の大目標と考えています。

※1 潜因性脳梗塞
脳梗塞の多くは脳血管の病変や、心臓などでできた血栓による塞栓症が原因と考えられているが、十分な精査にもかかわらず、原因が特定できない脳梗塞のこと。

※2 ホルター心電図
胸部に数カ所の電極を張り付け、小型の機械に心臓の動きを記憶させる機器。