経営改革が進めば、医療の質が上がる、
患者と向き合う時間が増える

PwCコンサルティング合同会社は最近、医療法人(大規模病院)を対象とした経営イノベーション支援に取り組んでいます。これまでの成果についてお聞かせください。

柴田 ひとつの事例として、ある総合医療センターの場合、病院との二人三脚の取り組みにより、約2年間で売上がプラス30億円、コスト削減策として委託料を年額2億円以上削減し、DPCⅡ群への昇格やそれによる約1億円の利益増などの成果を出すまでに至っています。 また、ある大学病院では5週間のコンサルティングにより利益改善の余地を精査し、結果として約1億3千万円の利益改善を実現する現実的なプランについて合意に達することができました。

医療機関の経営者は、医師であることが多く、コンサルティングを受けることに様々な抵抗があると思います。コンサルティングを必要とする医療法人の理事長、院長、会長などトップの方々に、コンサルティングの必要性をどのように説明しているのでしょうか。

柴田 私はこれまでの経験から、医療者にとって「働きやすい」病院をつくることが、病院経営を改善させる最良の方法であると説明しています。

病院の効率化が一般企業に比べて遅れていることは確かだと思います。しかし、問題は人ではありません。個々の医療者に着目すると、責任感が高く、頑張る人が本当に多いと感じさせられます。多くの医師が悩んでいるのは、より多くの患者を診る負担ではなく、雑多な作業が多すぎることによる負担や、医師が何でも責任を負わざるを得ないような院内ルールに起因する負担なのです。言い換えれば、こうした障害を取り除き、「働きやすい」病院をつくることができれば、患者数は自然と増え、結果的に経営も改善されるのです。

こうした経営改革を確実に進めるためには、院内のキーパーソンたちと、どれだけ密な関係を持てるかが鍵です。これらの方々が理解しやすい言葉で、財務分析とその評価、改善の方向性を説明し、同意と支持を取り付ける必要があります。

また、院内には経営改革についての考え方の違い、温度差があります。これらを乗り越えていくには、一種の強制力も必要です。時には我々は“外圧”として動くことを求められることもあり、改革派の先生方からの依頼で、あえて外圧として使われ、強制力を発揮する端緒となることもあります。

また院内では、「分かっているが、そこには踏み込みたくない」領域が存在します。しかし、院長や理事長など経営トップは、そこに踏み込まないと経営改革が達成できない。 このように経営者として悩みを抱いている人たちには、「自分がリーダーシップを発揮して、自ら動くことで周りが変わっていく」ことを体験してもらうと、その後は納得して動いていただくことができます。根気強くクライアントに寄り添うことが大事です。

髙橋 クライアントはいろいろで、トップはOKでも事務長はNO、事務長はやりたいけれどもドクターたちは嫌がる、など一筋縄ではいきません。病院内も我々側も、みな悩みながら経営改革を進めるということが実態です。しかし、きちんとしたロジックと数字に基づいた展望、そして結果をお示しすれば、理解していただけるものです。

理事長、病院長などの医療機関トップの方々は、最初は「長年やっているから、自分が一番分かっている」と考えておられることが多く、なかなか提案を受け入れていただけません。しかし、他病院での実績を示し、「時代は動いています。いろいろなものが変わっている」ということを実感していただければ、改革は進んでいきます。

実際に経営改革に着手する場合、院内のプロジェクトチームのメンバー選定も重要です。経営財務のトップ、院長クラスから次世代のリーダーまで、院内の各階層と年代を考慮し、実行力のあるメンバーを入れていただくようにしています。院内のプロジェクトチーム会議では、最初に仮説をつくるところから始めます。「患者が減っている」「なぜ減ったのか」「その対策は」。そして、「地域での当院の役割」を確認し、「他の病院との比較」を行う。近隣での「成功事例」を研究するなど、根本からチーム全員で議論します。

幸い我が国には、日本医療機能評価機構などが蓄積したデータや、DPCを分析し医療機関の経営効率を指標化したデータなどがあるので、「この地域を事実やデータで映し出してみるとどう見えるか」を共有することで、これまで院内で常識とされていた既成概念を壊すことができます。

詫摩 これまでの事例では、こうしたエビデンスに基づく説明が理解と同意を生んでいき、院内の合意、世論を形成していきます。重要なのは、その前提として、我々外部の人間が「現場をよくわかっている」と評価していただけることです。

また経営改革の過程では、これまで院内の皆がやりたくてもできなかったことを実現し、その結果が各々の職場にどのような形で現れるかを訴求します。例えば、改善が進めば「医師をはじめとする医療者の業務負荷が減る」。その結果、医師は患者と向き合う時間が増えたり、臨床研究に時間が割けるようになったりします。経営改革が医療の質を高めることを院内の関係者全員に納得していただく。このことでさらに改革が進んでいきます。

PwC Japan全体の強みを考えたとき、すでに 病院、医療法人の経営改善に取り組んでいるPwCコンサルティング合同会社と、医療法人、社会福祉法人の監査義務化を契機に医療機関にアプローチするPwCあらた有限責任監査法人のコラボレーションが考えられます。具体的に両者はどのような連携のもと、医療法人、社会福祉法人の経営改革に取り組んでいくのでしょうか。   

詫摩 監査義務化が契機となり、いよいよ医療経営イノベーションが本格的に動き出します。PwCのグローバルなノウハウをフルに活用し、監査法人と我々PwCコンサルティング合同会社がそれぞれの強みを活かす。そして両者が、「医療のPwC」として一体となって日本の医療改革に貢献する。これが我々の目標です。

「医療のPwC」の意味は、医療機関における経営改革の戦略づくりからその実施、そして成果を出すまで責任を持って支援すること。そしてその約束を果たすためには、秀逸な人材をご提供し、卓越した改革コンセプトを出し、目に見える成果を出す。これが基本です。

医療法人は、日本における経営改革で最後に残された領域といえます。この医療という領域において、我々PwCは、日本で初めて本格的な医療経営イノベーションを実現するコンサルティンググループとなりたいと考えています。