国立循環器病研究センターは、心臓病や脳卒中などの循環器病を対象とする高度専門医療研究施設として1977年に設立され、2010年に独立行政法人へと移行。3年後の2019年には吹田市操車場跡地へ移転する予定で、同センターを核とした医療クラスター「北大阪健康医療都市」、愛称「健都(KENTO)」は、循環器病分野の予防・医療・研究で世界をリードする地域を目指す。

50年に一度といわれるこのビッグプロジェクトには研究や治療、人材育成に加え、民間企業との連携も求められるが、その難しい舵取りを任されたのが、同センター新理事長の小川久雄氏である。

連載5回の第5回は、高齢者に急増している心不全の症状や治療、そして、緩和ケアの現状、課題などについて、小川久雄氏と安斉俊久にお話を伺った。

ロコモ、フレイル、サルコペニア
衰弱の出発点になる高齢者の心不全が急増

第3回の中で、小川先生は心不全の高齢者が急増していること、そしてその対応が急がれること、さらに次の段階では緩和医療に向かっていくと言われました。まず、心不全の現状について教えてください。

小川 これまでは心不全といえば、心臓の動きが低下している状態を指していましたが、近年注目されているのは動きが良くても心臓が十分に開かず、拡張性が障害されるケースです。心不全の病態が明らかになることでさらに複雑になり、その治療に苦労しています。

拡張不全によって何が起きるのですか。

小川 鬱血が起き、肺に水がたまります。そして、それがロコモやフレイル、サルコペニアといった衰弱の出発点にもなります。ロコモから心不全を発症するのではなく、心不全があるからロコモになり、さらに動けなくなって要介護になる。広報が足りないので一般にはほとんど知られていませんが、これが大きな問題となっています。

さらにもう一つの問題は、高齢者の心不全をどこまで治療するかです。一例を挙げると、CCUでは心筋梗塞など急性期の救命がメインですが、40歳の人が急性心筋梗塞で運ばれてきても心不全の高齢者で病棟が埋まっていて、若くて助かる命が救えない状態です。これは専門病院の分布データからも明らかで、80歳以上、90歳以上の心不全が病棟を独占しています。こうした状況は、医療の現場では2000年代初頭から気づいていたものの、だからといって高齢者は出ていけとは言えません。

最先端の医療を提供できる国循で
緩和医療に取り組む

そこで出てきたのが心不全の緩和ケアですか。

小川 これは治療をしないという消極的な意味ではなく、積極的ではないが諦めるわけではない。心不全における緩和ケアを言い換えると、“苦しみを取る医療”といえます。これまで緩和医療といえば、がんが一般的でしたが、今後は心不全の緩和医療が求められていくでしょう。ただし、どこまでやっていいのかは極めて難しく、医者の倫理観の問題もあります。

様々な課題がある中で、国循では2013年9月から国内初の循環器緩和ケアチームを発足させました。これは国循の大きな柱の一つであり、この取り組みには特別な意味があります。ありとあらゆる医療ができる国循だからこそ、並行して緩和ケアに取り組んでいるといえる。最先端の医療ができずに緩和ケアというと、全て諦めの医療になってしまいます。

その心不全の緩和ケアチームを率いているのが安斉先生ですね。では、緩和ケアを始めることになった経緯について、詳しくお聞かせください。

安斉 日本は大量死時代を迎え年間130万人が亡くなっていますが、がん以外で亡くなる人が全体の7割で、そのうち多くを占めているのが心不全です。そうした中で、小川先生が言われたように、心不全患者にどのように終末期を迎えていただくかが課題となっています。

がんの緩和ケアは確立されたものがありますが、循環器の分野では、宮本先生のお話にもあったように法律が整備されていないため、十分な対策が練られていないのが現状です。

特に高齢者の場合は心筋梗塞や心房細動など、もともと心臓に疾患があり、それに伴って機能が低下し、入退院を繰り返します。心不全は一応明確な定義があるものの症状は様々で、診断されていない潜在性の心不全患者数は、150~250万人とかなり幅をもって推測されています。診断されていない人に対しては心不全であることを自覚し受診を促すことが必要ですが、入退院を繰り返す心不全患者の場合、いかに生活の質を向上させるかがポイントです。