がんとはどう違いますか。

安斉 心不全は入退院を繰り返しますが、入院時に急に悪くなることがあり、それが本当に終末期なのか、それともまた良くなるのかが見えません。良くなったり悪くなったりを繰り返すため、ある程度まで状態を維持でき、悪化を予測できるがんとはそのあたりが異なります。

そうなると、最期かどうかの判断は難しくなりますね。

安斉 多くの場合、患者自身が病気を自覚できないまま入退院を繰り返して、今度もまた良くなるだろうと思っていながら退院できない。すでに終末期になっているのに、何度も除細動器をかけられたり、呼吸器を付けられたりと望まない医療で亡くなる人もいます。これは本人も辛いですが、家族も本人が望んでいる医療ができなかったのではないかと悲嘆に暮れてしまうことがあり、グリーフケア(※1)が必要です。

※1グリーフケア
身近な人との死別を経験し、喪失感にさいなまれた人に対して、相手の気持ちに寄り添い、悲しみから立ち直れるようにしていくこと

また、医療者にとっても「本当にこれで良かったのか。本人も家族も望まない医療をしてしまったのではないか」と、後悔することになります。

小川 終末期に、例えば下がっていく血圧を上げることは簡単ですが、それが本当に良いのかどうか。あるいは除細動器をかけると良くなりますが、それが本当に幸せかといったら絶対にそうではない。むしろ心臓を叩かずに、安らかにしてあげることも一つの方法です。諦めではなく、そうした意味での緩和ケアはこれから非常に重要になってきます。

緩和ケアのプログラムを開発中
学会での情報発信、開業医との連絡会も実施

入退院を繰り返す心不全では、また良くなるのか、このまま悪化していくのかが見えないと言われましたが、緩和ケアが始まるのはどの段階からですか。

安斉 早い段階から緩和ケアチームが介入するのは、重症の心不全患者です。本人がどのような最期を望んでいるのか、患者さんと家族を含めて十分に話し合った上で、それに沿った形の医療を進めていきます。これをアドバンス・ケア・プランニングと呼びますが、心不全の領域では未だ確立されていないため、AMED(国立研究開発法人 日本医療研究開発機構)と連携して国循が主任研究施設となり、緩和ケアの質の評価を定めて、全国共通レベルで心不全の緩和ケアを行っていくことにしました。

心不全緩和ケアで重要なポイント

また、すでに緩和ケアに取り組んでいる東京女子医科大学病院循環器内科と久留米大学病院循環器内科にも調査を依頼し、緩和ケアのプログラム開発を進めています。近年、学会でも緩和ケアに注目が集まっていることから、様々な学会で情報発信をしているほか、地域開業医とも定期的な連絡会を持ち、緩和ケアへの啓発活動を実施しています。特に昨年度は、厚労省による「人生の最終段階における医療」を実現するためのモデル事業として、循環器領域では国循だけが採択されたことで、開業医の認識も高まり、在宅で看取る方向へと進んでいます。