サイトカインが
心筋細胞改善の決め手

岡野・澤チームが、筋芽細胞を使った心筋シート療法を開発する前に、筋芽細胞そのものの心臓移植に取り組む研究者がフランスにいたそうですね。

 2000年頃からフランスの研究者フィリップ・メナシェ氏が、足の筋芽細胞を心臓に注射する心不全治療法に取り組んでいました。ところが、注射した細胞の内で心臓に定着するのは1割程度にとどまり、しかもそれが不整脈を引き起こすのです。メナシェ氏はES細胞も試していましたが、それでもうまくいかない。彼と意見交換をしている中で、細胞そのものを注入するのではなく、シート状にする我々のアイデアが固まっていきました。

なぜ細胞を直接注入すると失敗し、シート状にして貼り付けるとうまくいくのか。細胞を注入しようとすると、まず培養した細胞を懸濁液(※1)にしなければなりません。ところが細胞を、自分たちに最適化された環境を作っている培養皿から取り出して懸濁液に集めると、その段階で培養された細胞の多くが壊れてしまうのです。

※1 懸濁液
液体中に顕微鏡で見える程度の微粒子が分散している混合物のこと。

これに対して細胞をシート状にすると、細胞が壊れません。そのシートを動物の心臓に移植すると、細胞生着率が高く、不整脈も起こらない。メナシェ氏の実験により心臓の細胞と構成の近い足の筋芽細胞が効果的であることはわかっていたので、筋芽細胞を使った心筋シートで実験してみたところ心筋の活性化に成功しました。

第1回終わり(第2回に続く)