心筋シートの可能性と
普及に向けた今後の課題

心不全の治療法として大きな期待がかかる心筋シートですが、今後の可能性について、どのようにお考えでしょうか。

 現在、心不全を患っている方は、全国で約100万人といわれています。もちろん、その中には薬が効くレベルの方も多数いらっしゃいます。そこで再生医療が果たす役割は、まず患者さんの重症化を防ぐことだと考えています。

心臓が弱っていない状態であれば、心筋シートによるサイトカイン補充療法が効果的であることがすでに実証されています。その次の段階が、心筋シートによる細胞補充療法です。これらにより再生医療が、心臓移植、人工心臓に続く第3の治療法として確立される可能性は非常に高いといえます。

ただし、現状では対象となっているのが、虚血性心筋症だけです。これに対して拡張型心筋症も研究課題となっていて、我々は医師主導治験を行っています。企業としては採算ベースに乗りにくいかもしれませんが、我々は子どもを対象とした医師主導治験にも取り組み、成果を出しています。

澤先生のように、患者に対して手術や治療を行いながら、研究にも取り組むのは、大変ではないでしょうか。

 医療の世界では、実際に治療する人間が開発に携わることが、非常に重要だと考えています。開発者と治療者の異なるケースも見られますが、治療者こそは患者さんの苦しみを最も深く理解しており、開発にかける想いも強いのです。また実際に患者さんと向き合っているからこそ、そこから得られる知見を、タイミングを外さず開発にフィードバックしていけるメリットもあります。

心臓外科医で臨床をこなしながら、再生医療の研究開発も手がけている研究者は、少数かもしれません。毎日のように手術をこなしながら、研究も同時に進めるのはもちろん楽なことではありませんが、そこからでしか学べないことがあります。しかも幸いにして、研究室には多くの研究員がいてサポートしてくれている。私は恵まれていると感じます。

澤先生の今後のテーマについてお聞かせください。

 よく誤解されているのですが、私は再生医療そのものの研究に関心があるわけではありません。目指しているのは、再生医療の第一人者ではなく、あくまでも心臓外科の第一人者です。

「心不全で苦しんでいる患者さんを一人でも多く救いたい」。私の望みは、これに尽きます。心臓移植は本来なら、日本の患者さんの数を考えれば、年間最低でも1000人程度は行う必要がありますが、現時点では50例程度にとどまっています。

心臓移植が増えない理由をどのようにお考えですか。

 日本では文化的な背景があり、心臓移植を増やすことに国民的合意を得るのは簡単ではありません。人工心臓の成績もかなり良くなってきましたが、まだまだ難しい医療と言えるでしょう。救える命があるのに対して、何もできない歯がゆさに耐えられないのです。そこで再生型の医療に期待し、自らもその研究を進めています。

心筋シートによる治療に対する理解が広まり、この治療法に取り組む仲間も着実に増えてきました。今後は、全国の多くの病院で、心筋シートによる治療を受けられるようになるでしょう。同時に細胞補充療法による再生医療の実用化も目の前まで来ています。

心臓病に関しては、心臓移植ではなく、完全な人工心臓もしくは再生医療が、今後の主要な治療法となるはずです。その再生医療に関する研究を、一刻も早く進めて、一人でも多くの方を救うこと。これが私の使命です。

第2回終わり(連載2回)