医療ビッグデータの時代に問われるメーカーの責任

具体的にはどのような体制で、現場をサポートしていますか。

大箸 まず全国を36支店に分けており、これをまとめる統括支店を7拠点設けています。そこに「セイフティエキスパート」と呼ぶ専属スタッフを2名ずつ配置しています。彼らがいわゆる三師会、地元の医師会、薬剤師会、看護師会と連携し、地域でのネットワーク作りに取り組んでいます。セイフティエキスパートはMRとは違い、営業は一切行いません。だから、先生たちも好意的に会ってくれます。訪問して調査・副作用DBツールの話を聞くと、医師・薬剤師はかなり強いインパクトを受けるようです。

現在、チーム医療が盛んに言われていますが、それは医療機関内にとどまっており、地域におけるチーム形成が今度の課題と考えています。地域連携の観点からも、製薬会社もチーム医療に入るべきではないかと考えています。我々の情報が患者の役に立つことを説明し、共に取り組んでいけるよう努めています。

地域のチーム医療の中に製薬会社が入るとすれば、一社に限る話ではありませんね。

青木 その通りです。副作用情報は各社が持っているものを出し合った方が当然良いと思います。その点、安全性に関する部門同士は、企業の垣根を超えて握手しやすい。ただ、マーケティング部門が同じように手を組めるかといえば、そこは難しい。お互いに競合関係にあるわけですから当然です。だから我々のシステムを使えば情報提供が適切にできるとはいえ、それによる我々のメリットを考えれば悩ましいところです。

データ提供が広げる医療の可能性
官が主導し、全製薬会社の情報を蓄積

御社の先駆的な動きは、他社へも影響を及ぼしそうです。

青木 確かに我々の動きは業界内で注目されています。現場の先生方からは、「他の製薬会社に対して、中外製薬が構築したシステムを使えるようにならないのか」といった声も出始めています。ただ、弊社がコストをかけて開発したノウハウやシステムを何のリターンもなく提供できるかといえば、それは企業の論理が許しません。我々も福祉活動をしているわけではなく、営利企業が営利活動の中でできることと、できないことは明らかです。ただ個人的には、志を同じくするところと手を組みたいという思いは強くあります。表現は難しいのですが、「こうしたシステムを作っても決して儲からないけれど、一緒に損をしてくれるのならやりませんか」という感じです。

MRの教育を徹底するのも、なかなか真似のできないことです。

大箸 システム開発にあたっては、何度も石橋を叩き、慎重の上にも慎重を期してきました。それこそ外部の弁護士と情報提供の可否について何度も検討し、当局にも本当にやっていいのかと繰り返し確認しています。コンプライアンスの問題から、社内コンセンサスなども全てクリアした上で展開している。その上で、さらにMRに対して営業の資料として使うことはまかりならないと厳命しています。他社からも、こうした情報提供をやりたいという声は聞こえてきますが、実際に導入するためのハードルは相当高いと感じています。

しかし、ぜひ普及して欲しいシステムです。

大箸 一つ可能性があるとすれば、官が主導し特定目的での請負カンパニーを作るやり方でしょう。これに1社あたり5000万円ぐらい出し合って参加する。そうすれば20億円程の資金が集まるはずで、素晴らしいシステムを構築できる可能性があります。中国ではすでに全医療機関からの副作用情報を、国が全て吸い上げるシステムが導入されています。今のところ情報量はそれほどでもないようですが、国ベースで動いているので、やがてはデータ量が劇的に上がる可能性がある。これに対抗するには、やはり各社個別報告という現在の体制を変える必要があると思います。

そうしたカンパニーを実現するためにはどうすれば良いとお考えでしょうか。

大箸 現場の先生方からは、他社も我々のシステムに入れて欲しいとの要望が出ていると聞いています。こうした声を後押しとして、我々のシステムを医療機関だけでなく、調剤薬局などにも入れてもらい、副作用に関するデータをなんでも放り込む受け皿を作ります。そして、これをまず3社なり4社なりで実際に動かせるようになれば、自然に次の動きを引き起こせるのではないかと考えています。

第2回終わり(連載2回)