検査をしても簡単には
評価できない拡張不全

初めに、拡張不全タイプの心不全の概略について教えください。

増山 「心不全とはどんなものですか」と患者に尋ねられたら、一般的には心臓がくたびれて動きが鈍くなっている状態と答えます。これがいわゆる収縮不全による心不全であり、多くの人にとっての心不全です。だから、心臓の動きは悪くないのに、心不全になる拡張不全タイプがあるといわれても、素直に納得できない人が多いのは当然でしょう。

実際、一般の患者はもとより、ドクターの間でも十分に理解されているとは言い難いのが実情です。もちろん、医師だから理屈ではわかっているものの、いまひとつ納得しにくい。どうしてなのかと疑問に感じてしまう人が多いようです。

そのため、胸の苦しみを訴えて救急搬送されてきた患者を検査して、EF(Ejection Fraction)(※1)が正常値だった場合、まず心不全とは考えず、血圧や他の負荷による症状を想定してしまいます。あるいは、仮に心不全だとしたら、検査時のEFは良かったものの、数時間前の値は低下していて心臓の動きが悪かったはずだと考えてしまう。その原因は、拡張不全が最近まであまり知られていなかったためです。

※1 EF(Ejection Fraction)
心臓の機能評価の指標の1つで、心拍ごとに心臓が送り出す血液量(駆出量)を心臓が拡張したときの左室容積で除した値

しかし、実際にはこれまでも拡張不全の患者は一定数いたわけですね。

増山 拡張不全についての情報が行き渡っていなかったために見過ごされてきました。要するに心不全といえば、“左心室の収縮機能に異常がある病態”だと、多くの医師が認識していました。ところが収縮機能が正常であるにもかかわらず、心不全の症状を示す患者が確実に存在します。

拡張不全とは、その名の通り左心室の拡張期に異常が起こる病態です。心臓の収縮は悪くないが、心臓が硬化しているため十分に弛緩できなくなり、肺からの血液受け入れ能力が低下します。今では医師の間でも、拡張不全の存在自体は浸透しているので、こうした病態のあることは認識しています。しかし、実際に拡張不全の患者を前に、うまく説明できるかというとなかなか難しい。これは元をたどれば、そもそも心不全の定義自体が難しいためです。

ただ、最近では拡張不全の評価法についてのガイドラインなども整備されてきました。心拍出量、うっ血の程度、左房圧や右房圧などから総合的に判断できます。心拍出量は心エコーを見れば推定可能で、うっ血は左心室流入波形などからわかります。5年後あるいは10年後にはより評価しやすい手法が開発されると期待しています。