心不全とは虹のようなもの

心不全とは、どのような病態でしょうか。

夜久 心不全については、恩師の言葉が今でも強く印象に残っています。臨床医ではなく、心臓生理学の大家だった先生は常々「心不全とは虹のようなものである」と言っていました。

虹が7色であることは誰でも知っていますが、では、色の変わり目はどこかと問われると、誰も正確に答えることができません。この変わり目の曖昧さが、心不全と同じではないかというのです。比喩的な表現を理解すれば、言わんとするところが何となくわかるのではないでしょうか。

心不全という心臓の病状を表す言葉自体は、一般によく知られています。しかし、その実態について正確に理解されているとは言い難いのが実状です。症状の変わり目、すなわち悪化していく状況を段階的に区切ることは誰にもできません。そして、空にかかった虹がやがて必ず消えていくのと同じように、心不全も最終的には命の終わりに繋がります。「心不全が虹のようなもの」という恩師の表現には、恐らくこのようなニュアンスが込められていたのだと思います。

最終的は死に繋がるという点が見過せませんね。

夜久 心不全は内科外科を問わず、循環器医療に携わるものにとって最後の砦とでも呼ぶべきものです。循環器系の疾患、心臓に不具合を抱えている患者の多くが、最後は心不全で亡くなっていきます。それに対して、いかに取り組んでいくか。それが最後に残る問題だと思います。

2017年10月31日、日本循環器学会と日本心不全学会が共同で、心不全の新たな定義を発表しました。これによると心不全は「心臓が悪いために、息切れやむくみが起こり、だんだん悪くなり、生命を縮める病気」と表されています。

私はかねがね、心不全とは心臓が確実に弱っていく症状であることと、その重篤さを広く一般の人に知ってもらうことが大切と考えてきました。学術的には「症状」と定義されてきましたが、一般の人が直感的に理解できるよう、わかりやすい「病名」を付けるべきだと考えていました。だから今回、心不全を従来の「症状/病態」とする定義から一歩踏み込み、「命を縮める病気」とはっきり表現したのは、広く警鐘を鳴らす意味でとても良いことだと思います。

発表では「入退院を繰り返しながら、徐々に症状が悪化していき、5年生存率は約5割」とも記されていました。

夜久 徐々に悪化するというのが、決定的に重要なポイントです。患者の多くが、たとえ心不全になったとしても、手術などをすれば「全快」すると勘違いしているのではないでしょうか。もし、そのように思っているとすれば、全くの誤解です。

確かに手術によって症状が劇的に改善されるケースは多々あります。ただし、いくら手術がうまくいったとしても、心不全そのものが完治することはありません。患者には、手術後の二次予防から新たな治療が始まることを強く訴えたいと思います。術後には薬物療法が不可欠であり、リハビリも適切に行って欲しい。二次予防の必要性をしっかりと認識してもらい、生涯を通じて病気と向き合っていくよう意識を変えてもらうことが必要です。