求められる患者の
時間軸を見通した治療戦略

心不全に対する外科的治療について、教えて下さい。

夜久 冠動脈バイパス手術に僧帽弁形成術・置換術や左心室形成術、左室補助装置植え込み術、そして心臓移植や近い将来には心筋シートを使った再生医療も選択肢となるでしょう。手術に携わる外科医が何より心がけるべきは、患者の人生の時間軸を見通した上で、治療戦略を考えることです。

心不全が不治の病である以上、手術する際には手術後に続く患者の長い人生を見通しておくことが重要です。症状が徐々に悪化していくことを前提として、どの治療を、どのタイミングで施すのか、あらかじめ考えておく。仮に患者が今50歳だとすれば、続く30年ほどの時間軸を見越した治療戦略が求められます。

なぜなら最初に行う手術によって、病態が進行した際の次の選択肢が限られることがあるからです。例えば、まずステントで広げて様子を見て、それで詰まったらバイパス手術をする。さらに心機能が悪化してくると弁膜症を起こすことがあるので、そのときには僧帽弁形成術や僧帽弁置換術などを行う。こうした一連の対処を最初から想定しておきます。

患者を診断した時点でとりあえずできる治療をするのではなく、患者の人生を見通した上での治療が必要ということですね。

夜久 仮に三枝病変、つまり冠動脈の3つの枝が同時に狭窄または閉塞を起こしている場合、外科医の頭に最初に浮かぶのはバイパス手術でしょう。その選択が必ずしも悪いというつもりはなく、実際にこれまでに数多くの成功事例が積み重ねられています。

ただし、それで良くなったとしても心不全が完治するわけではなく、いずれ時間の経過とともに再び悪化していくケースが多い。そうなったときに次の打ち手として、何を考えておくのか。患者を目の前にすると、この人を何とか楽にしてあげたいと思うがゆえに、その時点での最善の選択肢を考えてしまうのは外科医の性といえます。ところが、現時点でのベストな選択肢が、長期的に見た場合には最善手となり得ないことがあります。

仮に将来、心移植を視野に入れているのなら、レシピエントの移植登録をしてLVAD(著しく低下した新機能を補助するために、心臓に装着する機械)をやらないと移植は回ってきません。将来をどう考えるかによって、打つべき手は変わってきます。

それが戦略的に治療を考えるという意味ですね。

夜久 そうなると、外科としての戦略だけでなく、内科との連携を踏まえた治療を視野に入れておく必要があります。だから内科医と外科医がチームを組んで患者と向き合い、長期的な視点で治療戦略を考えるべきです。

こうした治療体制を実現するのがハートチームカンファレンスです。1人の患者に対して、内科医、外科医、看護師、リハビリの先生からPT(理学療法士)やOT(作業療法士)など関係する全スタッフが協力し、長い人生全体の時間軸の中において、患者のQOLをトータルで高めていきます。

第1回終わり(第2回に続く)