遠隔診療に追い風が吹く中、早くから遠隔診療におけるモニタリングの質を高める研究に取り組んできたのが、佐賀大学医学部内科学講座主任教授の野出孝一氏である。同大学では、2012年から厚労省の長寿科学研究の補助を受け、インターネットを介して在宅で慢性心不全を管理するHOMES-HF研究をスタートさせている。この研究により、「医療を大学から病院へ、さらには地域、家庭へ。専門医からチーム医療へと転換する契機にしたい」と野出氏は、研究の目標について語る。

連載4回の第1回は、心不全の現状や医療現場での課題、心不全の遠隔管理を構想するに至った経緯などについて野出氏にお話を伺った。

医療経済に打撃を与える
心不全患者の増大

2017年10月31日、日本循環器学会と日本心不全学会が共同で作成した「心不全の定義」が発表されました。記者発表の場では、心不全はQOLを著しく低下させることなどから、がんと同等、またはそれ以上の啓発活動が必要であると強調されていましたが、啓発活動と共に、医療体制の整備が急務と思われます。野出先生のお考えをお聞かせください。

野出 日本は世界一、高齢化社会が進行しており、昔は老衰といわれていたものの多くが心不全だったと思われます。 従来は循環器病というと、心筋梗塞等が中心でしたが、インターベンションや薬剤溶出型ステントの進歩、救命医療の進展などにより、心筋梗塞で死亡する人は減少傾向にあります。その代わり救命された人は延命によって長生きするため、相対的に心不全が増えてきます。

また、日本だけでなく世界的にも今後、心不全が増加することは大きな問題となっています。医療の目標は健康長寿の達成ですが、寿命に大きく影響するのは心不全であり、QOLを低下させるのも心不全です。QOLの確保、向上という観点からも、心不全という病気は今後極めて大きな位置を占めていきます。

高齢者の心不全が増加すると、医療の現場ではどのような問題が発生しますか。

野出 高齢者の心不全は良くなって退院しても、また再入院を繰り返すため、高齢心不全患者の病棟占有率が高まります。そうなると、医療費のコストが大きくなるだけでなく、例えば緊急対応が求められる心筋梗塞のような疾患の受け入れが難しくなり、マイナス面が目立ってきます。

また、心不全はQOLを著しく低下させるため、運動耐容能(体力)も低下します。軽い心不全でも勤労意欲を失うため日本全体として労働力の低下に繋がり、経済生産性も減らします。心不全は医療と経済の両方に作用するという二面性があるため、日本の医療経済にとっても打撃を与えます。

心不全は、その症状が単なる疲労や高齢化によるものと捉えられてしまうことも、わかりにくさの一因と思われますが、いかがでしょうか。

野出 心臓は全身の臓器に血液を与えているため、心臓が悪くなると特異的な症状が出るのではなく、全身が悪くなります。例えばがんや痛風などは痛いといった症状がありますが、心臓が悪くなっても症状はぼやっとしている。それがわかりにくい原因です。何となく疲れやすい、ちょっと歩くとだるいといった症状が典型的で、特に軽い拡張不全はわかりにくい。自覚症状はないものの動きが鈍くなり、体力や行動力が落ちるため、日常生活に与える影響は大きいといえます。