拡張不全に気づかない
隠れ心不全の怖さ

心不全の治療における課題はありますか。

野出 大学病院の中でも重症の心不全に対する治療は様々に行われています。最終的には心臓移植になりますが、心臓移植の待機患者に対しては、例えばVAD (Ventricular Assist Device)という左室補助装置の植え込みなど、重症心不全への治療が発達してきました。ただし、お金がかかることと、全員がこうした医療の享受を受けられないことから、より普遍的な医療が必要です。

一方で、治療薬については様々な研究が進んでいます。65歳以上の糖尿病患者の2割は心不全で、そのうち5年以内に亡くなるのは8割です。最近の大規模研究によれば、糖尿病の治療薬であるSGLT2阻害薬を使うと心不全が抑制できることがわかってきました。また、高血圧は心不全のリスクであり、β遮断薬が心不全に対して効果があることは理解されています。

なぜ65歳以上の糖尿病患者に心不全が多くなるのですか。

野出 糖尿病の人に多いのは拡張不全です。この拡張不全とは、収縮機能は正常に保たれていても心筋が硬くなっていく状態です。高血糖になると心筋細胞が肥大化し、線維化して硬くなる。収縮はしているので一見正常に見えますが、硬くて心臓は広がりません。これが隠れ心不全です。

隠れ心不全が多いのは、本人に自覚がないためです。何となく体がだるい、ちょっと胸に違和感があるといった状態を放っておくと、前述したように65歳以上糖尿病心不全患者は5年で8割の人が亡くなります。現代は、食生活の欧米化や肥満、車社会で運動をしないなどの要因から糖尿病が増えています。心不全の原因として最も多いのは高血圧ですが、1番怖いのは糖尿病です。

超高齢社会における医療の形
ICTの活用で再入院の予兆を掴む

心不全にならないことが重要ですが、どのような手立てがありますか。

野出 心不全になる以前に予防していくしか道はありません。血圧や糖尿病をコントロールする、検診を受けるなど、心不全のリスクファクターを管理する、つまり一次予防が重要になってきます。さらに、重症化した心不全で再入院させないことが二次予防になります。こうした一次予防、二次予防という両面での介入が求められます。

心不全は年齢に依存します。後期高齢者の1~2割は拡張不全と考えられ、病気がなくても年をとれば心不全になりやすい。要するに高齢者の場合はもともと心不全が合併していると考えて、再入院を防ぐ観点が不可欠です。

私たちは、以前から再入院を繰り返す高齢者の心不全を何とかできないかと考えていました。どのような指標を目安にして再入院を防ぐかというと、心不全発症には2つの原因があります。1つは腎臓等が悪くなって水がたまっていくタイプの心不全。もう1つは、血圧がぐっと上がって末梢血管抵抗が増加するタイプの心不全です。つまり、血圧と体重をきちんと管理すれば、再入院の予兆をキャッチできるのではないか。

そんな時、たまたま日経新聞の1面に、日本が超高齢社会に突入することと、ICTについての記事がそれぞれ掲載されているのを目にしました。ICTについては、第2次安倍内閣が誕生した頃だったと思いますが、ヘルスケア分野の成長戦略として医療・介護・予防の分野にICTを活用し、効率的で安心できるシステムを構築することを掲げていました。

そこで、ICTを活用した遠隔管理を構想されたのですね。

野出 超高齢社会において、どのような医療が考えられるのか。ICTの時代にあって、これを活用した治療とはどのようなものか。その1つとして、ICTで血圧と体重を遠隔で管理し、評価をすれば高齢者心不全の再入院が防げるのではないかと考えました。

加えて、これからの医療は治療から予防へ、病院から地域へと向かうため、私たち大学病院だけで取り組むには限界があります。医師会も含めた地域で循環器医療を診ていくことが必要で、そのために遠隔医療の活用は欠かせません。

第1回終わり(第2回に続く)