体重や血圧などを自宅で管理できることが遠隔モニタリングのメリットだと思いますが、患者側に変化はありますか。

野出 毎日決まった時間に自分で体重計に乗る、血圧を測るという行動変異が起こります。これは周りから見てもらっているという安心感と意識によるものです。監視されているのではなく、自ら気をつけてやろうとする行動変容は最大のメリットです。

一方、医療者側にもメリットはあります。遠隔モニタリングで開業医や大学病院の医師、看護師やソーシャルワーカーなど様々な職種の人たちが、体重と血圧、心拍数といった情報を共有します。この情報が共有されると連携がしやすくなります。シンプルな情報を共有することで院内はもちろん、病院を超えた外、職種を超えた医療連携が進むことが大きなメリットです。

ICTで繋ぐ遠隔医療は、ソーシャル・キャピタルを向上させます。健康の社会構造には最小単位として細胞や遺伝子があり、その外側に臓器があって、さらに社会環境やソーシャル・キャピタルがあります。

ICTで繋ぐ社会の絆
健康に重要な役割が果たす

遠隔医療が、なぜソーシャル・キャピタルを向上するのでしょうか。

野出 ハーバード大学のイチロー・カワチ先生によれば、日本が長寿社会を実現できたのは社会資本が最も発達している国だからだと述べています。つまり、1番大切なのは絆である。また、社会資本の充実度と健康寿命は相関するというデータもあります。ICTで繋ぐことで、ソーシャル・キャピタルを向上させる効果があるとすると、それが結果的には心不全にも反映されるのではないか。そう考えると、心不全の医療未来は医療だけでなく、もっと行政が介入した形で、それがさらに地域で根付いていき、心不全の地域での看取りが進んでいくのではないかと思います。

例えば、男女共に長寿日本一の長野県(※1)には健康相談をしたり、住民同士が触れあえる健康サロンがあり、社会的なキャピタルを向上することによって長寿県になり得ました。逆に、以前はコミュニティが発達していた沖縄は、もちろん食事の問題も要因の1つになったと思いますが、古くからあったコミュニティや人との関わりが薄れることで、長寿社会の崩壊に繋がったといわれています。

東京都や大阪府にある大規模ニュータウンに象徴されるようなコミュニティでは社会的な絆は少ないですが、地方にはまだまだ絆が強いところが多数残っています。社会の中で絆を感じるこの意識が、健康には重要な役割を果たしていて、それはICTによっても実現できると考えています。これは何も患者だけの問題ではなく、私たち医療者も大学病院や医師会、地域の病院などと連携が大事です。

※1 都道府県別の平均寿命2015年版(2017年12月13日厚労省発表)
男性1位:滋賀県 2位:長野県 女性1位:長野県

ICTを活用して
地域医療の連携を支援

コミュニケーションが希薄な時代にあって、ICTを医療者と患者、医療者同士の情報共有のためのツールとして使っていくという新しい手法ですね。

野出 ICTを活用したHITH(Hospital in the Home)にも現在取り組んでいます。今後、心不全患者数が増加することから、開業医や地域の基幹病院との連携を深めていくことが求められます。そこで、私は地域連携室長時代に佐賀大学病院の中に在宅医療支援部をつくっていただきました。この支援部には慢性心不全認定看護師が在籍しており、病院から在宅に移行する際には訪問看護ステーションの看護師に同行し、一般には慣れていない心不全の自宅での管理やケアを指導しています。

加えて、佐賀大学病院の医師は在宅医師や開業医が訪問診療で困った場合、電話やメールで問合せをすれば、循環器病あるいは心不全の治療や診断に関するアドバイスを行います。この取り組みによって、大学病院からスムーズに在宅に戻せるためメリットは大きいのですが、同行加算は看護師だけで医師には付きません。

そこは課題ですね。開業医や在宅医が大学病院の医師に教えてもらうことができれば相互にコミュニケーションが生まれ、一方の大学病院の医師もボランティアではなく仕事として受けることができれば、地域における循環器疾患の連携がよりスムーズにいきますね。

野出 ここでもICTを使って体重や血圧の管理をしていますが、その結果、医療費や在院日数が減れば、将来的には心不全の遠隔化に対して保険償還が制度化される可能性があります。

現在、行政側も遠隔医療に対して積極的になってきたところで、禁煙指導に関しても遠隔指導がほぼ取れそうな状況です。遠隔モニタリングは、糖尿病や高血圧ではなかなか費用対効果に跳ね返ってきませんが、心不全の再入院が防げるとなれば費用対効果が高く、評価も変わってくると期待しています。

第2回終わり(第3回に続く)