タイミングと広がりを意識する「時空医学」
予防は切れ目のない治療

遠隔医療による重症化予防、HITHによる地域医療機関との連携、在宅でのケアや治療へのアドバイスなど、野出先生は予防という観点から様々に取り組まれています。ただ、心不全が予防できることも、一般には知られていないと思われますが、これについてはどのように考えていけば良いでしょうか。

野出 病気の予防というと、何かをしない、あるいは必ず何かをするといった窮屈な感じがしますが、大切なのは“気持ち良く生きること”です。これは当然、長寿にも繋がります。まずは気持ち良く、心地良く生きるための予防と考えてみてください。

例えば、拡張不全になると体がだるい、何となくしんどいといった症状が出てきますが、そうならないための予防です。それは決して特別なことではなく、糖尿病や高血圧を治療するというシンプルなことと、治療薬を的確に使うことで心不全は予防できます。

私が講演で良く使うのは、「時空医学」という言葉です。例えば空間を考えてみると、単に病院だけではなく、広がりを持った医療を実践しなければ効果はありません。前述したように、地域を巻き込んだ広い中での医療を考えていく。まさに遠隔医療は空間を広げるための医療です。

時空のもう1つの要素は、時間ですね。

野出 時間についていうと、例えば、“より早い方が良い”という考え方です。同じ薬を使っても、同じ治療をしても、「The sooner,the better」、つまり早ければ早いほどいい。より早期から予防や治療をすればするほど効果的で、心不全にはこの発想が重要です。遅ければ遅いほど効果が少なく、早ければ早いほど効果が上がります。

具体的にはいつ頃から始めると良いのでしょうか。

野出 例えば血圧がちょっと高い、血糖が少し高いといった段階からです。予防は切れ目がない治療と言い換えてもいいですが、治療というのはポイントがあって発症してからの行為で、このポイントによって決まりますが、予防にはそのポイントがありません。

また、小学校、中学校からの食育教育も必要で、それほど早くから始めれば予防効果も大きいはずですが、全てを子ども時代からできないため、血糖や血圧に変化があった時が鍵になります。血圧や血糖の変動が異常だった時に早めに見つけて、しっかり管理することが重要です。

本人が血圧や血糖の異常に気づくこと、あるいはその意識を持つことも大切ですが、一般の人はなかなか気づきにくいことも事実です。そこは日頃診てもらっているかかりつけ医が気づいて、早めに介入していくことが求められますね。

野出 まさにタイミングです。すでに遠隔モニタリングの結果、体重が2kg増えたら要注意ということがわかっています。そして、その増えるポイントを逃してしまうと手遅れになります。また、在宅や入院中も患者の症状を1番聞いているのは看護師です。現場の声、感覚でタイミング良く介入することが必要で、それは医師だけではなく、やはり多職種で診ていくことが欠かせません。

心不全は怖い病気ですが、気持ち良く生きるために予防をしていくという考え方は、新たな気づきになりました。

野出 快適に生きることの障害となるのは心不全です。実は心不全患者のうつ病も多く、体が悪くなると、うつ病や不眠になりやすいことが報告されています。心不全は単に臓器障害になるだけでなく、心の問題にも大きく影響します。誰しも最期は“ピンピンコロリ”がいいと願っていますが、心臓が悪いとそうはなりません。

繰り返しますが、快適に生きるために心不全を予防する。そして、時間と空間を意識し、血糖、脂質や血圧に変化があれば医療機関にかかる。自分の体を守るのは、まず自分自身であることも、意識して欲しいと思います。

第4回終わり(連載4回)