迫りくる「心不全パンデミック」リスク

心不全による入院患者が増え続けているため、近い将来にパンデミック状態に陥る懸念があると聞きました。

筒井 2025年には団塊の世代が75歳を迎えます。心不全が加齢に伴って有病率の高まる病気である点を踏まえるなら、今後は状況がより深刻化する恐れがあります。

日本のような超高齢社会において心不全患者が増え続け、再入院を繰り返して在院日数が増えていくと何が起こるでしょうか。感染症がアウトブレイクした時のように、患者数の急増に医療機関が対応できない状況が考えられます。こうした最悪のケースを想定して、マスコミから出てきた言葉が「心不全パンデミック」です。

循環器科を備える医療機関が全力で対応したとしても、患者数の増加が治療対応能力の限界を超えるリスクは否定できません。すでに循環器科の外来、特に救急外来での受け入れ状況を見ると、急性心筋梗塞の患者よりも、急性心不全の患者の方が多くなっています。

病棟の入院患者数についても同様の傾向が出ており、冠動脈疾患の患者よりも慢性心不全の患者の方が多い。循環器科を備える基幹病院の多くでは、心不全の入院患者をいかに減らすかが悩みのタネとなっています。

入院患者が増えていくと、当然医療費もかさみますね。

筒井 もちろん医療経済に与える負担も大きく、現在でも急性心筋梗塞の総治療費を心不全が上回っています。前述したように心不全の場合、何より問題なのは、患者の多くが複数回の入院を繰り返すことです。しかも、一旦退院しても、すぐに再入院となるケースが増えています。急性心不全を起こして入院し1カ月ほど治療して退院する。しかし自宅にとどまる期間はわずか1週間ほどで、再び急性増悪を起こして再入院してくる。そうした患者が後を絶たないようでは、一体何のために時間をかけて入院治療しているのかと医師も悩みます。

長い時間をかけて治療をしても、それより短い時間しか家で過ごせない状態は本末転倒と言わざるを得ません。こうした状況を少しでも改善しようと、医師はもとより看護師、薬剤師、理学療法士、心理療法士らが力を合わせて再入院を防ぐ取り組みに力を入れているところです。

そうした状況を根本的に改善するために、心不全におけるステージAからの早期介入を訴求されているのですね。

筒井 心不全の病気を、ステージAからDまでの4段階に分類する考え方は、アメリカ心臓病学会で提唱されたものです。ステージAとBは、心不全の症候がまだ何も出ていない段階です。中でもステージAは器質的な心疾患(心臓の構造の異常や機能の低下)すら発症していない状態ですが、高血圧や糖尿病など将来的に心不全を発症する危険因子を抱えている段階です。

心不全患者を減らすためには、このステージAの段階で危険因子を適切にコントロールし、器質的心疾患の発症を予防することが最重要の課題です。

第1回終わり(第2回に続く)