20代から生活習慣を意識
求められるステージAからの対応

「心不全パンデミック」を防ぐために、患者としては何を心がければ良いでしょうか。

筒井 第1回で少し触れましたが、心不全は進行度に応じてステージAからDまでの4段階に分けられます。将来的に心不全を発症するリスクを抱えているのがステージA、この予備軍ともいえる人たちが、日本には数千万人規模で存在します。

例えば高血圧の人は4000万人、糖尿病が1000万人といわれています。こうした生活習慣病を抱えていると、将来心不全になるリスクが高まります。仮に高血圧を放置したままだと、心臓の筋肉が厚くなりポンプ機能が低下して心不全に至ります。

つまり、まずはステージAにならない、すなわち心不全予備軍とならないように心がけてください。具体的には高血圧にならないよう塩分の摂り過ぎに気を配り、肥満や糖尿病にならないよう食事に注意して、適度な運動を心がける。当然、喫煙はだめです。そう考えれば40代になってから気をつけるより、できれば20代頃から生活習慣を意識してもらうのが理想的です。

仮にステージAとなった段階では、将来の心不全発症を頭に入れて、可能な限り発症を抑えるように「治療する」意識を持って欲しいと思います。まだ心不全を発症してもいないのに、心不全の治療というのは大げさすぎるではないかと思わるかもしれません。

しかし高血圧や糖尿病、動脈硬化性疾患などの病気は、今は大丈夫でも、将来的に心不全につながりかねない病気です。その自覚を持って、治療にしっかりと努めてください。そうした努力が結果的に、心不全の発症抑制に繋がります。

ステージAからステージBへと進行した場合には、どのように対処すべきでしょうか。

筒井 ステージBとは、心不全の症状はなくとも、心臓の肥大や拡張機能の低下など、器質的心疾患のあるステージです。心筋梗塞や心臓弁膜症などの心臓病を持つ人も、このステージに相当します。とはいえ、この段階で踏みとどまれば、心不全発症には至りません。

そこで重要なのが、現在受けている治療、具体的には薬物療法を徹底することです。規則正しい服薬と生活習慣の改善を意識し、減塩、禁煙、節酒と適度な運動を心がける。自分で勝手に判断して薬をやめたりしないよう、くれぐれも注意してください。

とにかく、ステージCへの移行、つまり心不全の発症を何としても防ぎましょう。一度、心不全を発症してしまうと、後戻りできなくなります。大切なのは早期発見であり、心不全のバイオマーカーとなる血液中のBNP値(脳性ナトリウム利尿ペプチド)の定期的なチェックも重要です。

ステージCになると、どのような症状が出るのでしょうか。

筒井 息切れがして呼吸が苦しくなったり、むくみが出たりすると心不全の疑いが強まります。むくみは足首などに出やすく、基本的に両足に出るのが心不全の特長です。むくみを指で押さえてみて、なかなか元に戻らないようなら要注意です。

心不全を発症してしまうと、治療のゴールは「健やかに長生きすること」「症状を軽くすること」「いきいきとした生活ができること」となります。治療のゴールがこの程度にとどまってしまうのは、今のところ心不全を完治する治療法がないからです。薬と機器をうまく使いながら、生命を縮めないようにするのが治療の目標となります。

薬は症状に応じて随時、適切なものに変えていきます。症状の進行によっては、植込み型除細動器、心臓再同期療法など医療機器の使用も選択肢となります。さらに症状が悪化して、安静時も息苦しさを感じるようになるとステージDとなります。この段階まで進むと入退院を繰り返すようになり、治療も難しくなっていきます。そこまで悪化させないように治療を尽くし、可能な限りステージCにとどめるのが、我々医師の役目であり、目標でもあります。