法整備だけでは解決しない
垣根のない治療とケアが重要

心不全同様、重大疾患の1つであるがんは、がん対策基本法が施行されたことで、医療体制の連携、治療や研究の進化、患者会の充実が図られました。循環器領域においても、法整備がなされるべきだと思いますか。

飛田 医療機関がかかりつけ医と急性期治療、回復期治療、慢性期治療と、それぞれの役割を明確化し、機能分化していったときに、最も重要なことはペーシェント・ジャーニー(※1)を考慮したシームレスな医療連携を実現することです。

※1 ペーシェント・ジャーニー
病気を告知されたときから、必要な治療、治療後の人生について、さらに終末期や看取り、あるいは完治するまでに患者が体験する医療者との全ての接点を旅にたとえた名称。

患者さんが、自分はどこで受診したらいいのか、何をすればいいのかと迷うことなく、いつも誰かが自分の情報を共有し、それぞれの立場で連携しながら診てくれる。そういった安心感を与えられることが求められます。基本法が制定され、それが診療報酬改定に反映されるときに、医療機関それぞれの役割が明確になり、かつ患者さんに恩恵があることが望ましく、そのことががんと同様、一般市民に認知されることが重要です。

がん対策基本法のように、一定の存在意義が認められ、医療の分野においてはいくつかの基本法が定められたものの、今の日本には医療基本法はありません。新たな疾患別基本法を制定しようとする動きもありますが、これについて、飛田さんのお考えをお聞かせください。

飛田 現在、国が予算をつけようとしているのは、糖尿病の腎症重症化予防です。透析を回避するため様々な形で介入しているため、大いに期待しています。糖尿病性腎症重症化予防基本法が制定されていくとすれば、患者さん中心の医療連携が重要と考えます。

がんの生存率が高まる一方で
腫瘍循環器が新たな課題に

患者目線で考えると、法律ができることだけが全てではない、法律で全てを解決できるわけではないといえますね。

飛田 がん治療の進歩により、がん患者さんの生命予後は飛躍的に改善されています。サバイバーと言われるように、がんで亡くなる人が減少してきた時代に、がん患者さんが亡くなる原因は何かというと、心疾患や脳血管障害による死亡者の増加です。そうなると、がんと循環器が重なった領域を扱うOnco-Cardiology(腫瘍循環器)という新しい概念がより重要になってきます。つまり、がん対策基本法から新たな課題が出てきます。

また、先日もがん拠点病院のある先生と話していたのですが、院内には複数の循環器の先生がいて、主に手術前の心機能検査をされているそうです。例えば、がんで抗体薬や免疫チェックポイント阻害薬(※2)を使用したときに、心筋ダメージや1型糖尿病等副作用が出た場合、誰がケアをするのかと伺うと、先生も「それは非常に大事で今後の課題」と言われていました。

一方で、かかりつけ医ががんを診ることはまだまだハードルが高い中で、がんサバイバーの心血管障害の抑制に誰が介入するのか。それが、現在抱えているテーマの1つだと思います。

※2 免疫チェックポイント阻害薬
これまでの免疫療法は、免疫機能の攻撃力を高める方法が中心だったが、近年、がん細胞が免疫にブレーキをかけ、免疫細胞の攻撃を阻止していることがわかってきた。そこで、がん細胞によるブレーキを解除することで、免疫細胞の働きを再び活発にし、がん細胞を攻撃できるようにする治療法が考えられている。その中でも、免疫チェックポイント阻害薬はがん治療の新たな治療法として注目を浴びている。

腫瘍循環器の重要性については、「心不全の定義」の記者発表の場でも、小室先生が発言されていました。御社では、こうした新しい課題に対して、何か活動を予定されていますか。

飛田 小室先生と国立がん研究センター、がん研有明病院、弊社で、昨年11月「がんと循環器を考える会」をテーマに研究会を開催しました。具体的な活動はこれからですが、全国のがん診療連携拠点病院でがんを診ている先生と、循環器の先生の意見を伺いながら進めていく予定です。

製薬会社は薬からのアプローチだけでなく、一人ひとりの患者さんの立場で考えると、次に重要なことが見えてきます。さらに言えば、心不全の治療を考えていくと、がん同様、心不全のターミナルケアも不可欠になってくるでしょう。末期のがん患者さんに対し、酸素吸入から医療用の麻薬を用いて痛みを取るなど疼痛緩和療法が実施されています。心不全の末期においてもそういった呼吸困難などに対する緩和療法の重要性が問われています。