第2回は、わかりにくい心不全をどのように伝えていくのか、若くても心不全を発症すること、そして悪化すると日常の動作にも支障が出ること、さらに心不全の予防についても、引き続き、中村氏にお話を伺った。

心不全の苦しさ、怖さを実感
歯磨きで息切れ、食事で冷や汗が

よく「心不全はわかりにくい病気である」と言われます。2017年10月31日、日本循環器学会と日本心不全学会が共同で一般向けに心不全の定義を発表しましたが、どうすれば一般への理解が進むと思いますか。

中村 例えば、「がん」というと、すぐその後ろに死への恐怖感やリスクを感じます。がんを発症したら死んでしまうのではないか、もしくは余命が短くなってしまうと考える人も多いと思います。ところが「心不全」といわれても、一般の人にとっては、何か漠然としていてイメージがわきにくく、年を取れば当然心臓は悪くなるという考えから老衰に伴うもの、あるいは高齢者の死因であると捉えられているのではないでしょうか。

東京大学医学部附属病院循環器内科教授の小室一成先生も、「専門医であっても一言では心不全を説明しきれないか、違う言葉で説明している」と言われていたように、簡単に説明できないことも、一般への理解が進まない原因かもしれません。

しかし、高齢者でなくても様々な要因から心臓の動きが悪くなり、QOLを低下させ、入退院を繰り返して亡くなることがある。こうした実態を正しく伝えていく必要があると考えます。

心不全というと、どうしても高齢者の病気というイメージで捉えがちです。

中村 これは一例ですが、私自身、心不全が高齢者だけの疾患ではないと実感した出来事がありました。かつて心不全の治療薬の情報提供をしていたとき、ある先生から聞いた話です。

心不全の重症度分類NYHA(※1)のIV度(※2)で入院していた40代の女性が、数カ月後に行われる小学生の娘さんの運動会にどうしても行きたいと希望していたものの、実際には歯磨きをするだけでも息切れがする状態と聞き、驚きました。

また、別のケースでは、食事をするだけで冷や汗をかく患者さんがいると知り、あらためて心不全の苦しさや怖さを認識しました。

※1 NYHA
New York Heart Association:心不全の重症度分類

※2 IV度
心疾患のためいかなる身体活動も制限され、心不全症状や狭心痛が安静時にも存在する。わずかな労作でこれらの症状は増悪する。

危険因子となる疾患を適切に治療し、
心不全を発症させない

中村さんが言われたように、心不全の実態を広く理解してもらうと同時に、どのような予防法があるのかも伝えていく必要がありますね。

中村 心不全は、食事や運動などの生活習慣を管理すること。また、高血圧や冠動脈疾患、糖尿病等、心不全の危険因子に対し、適切な治療を行っていくことが重要とされています。健康な人にとっては、歯磨きや食事は何でもないことで、体力を必要とする作業ではありません。息切れがすると、つい「年をとったから仕方がない」と思いがちですが、40代の若い人でも心不全が悪化すれば、階段を登ることが難しくなってしまったり、食事や歯磨き等の日常動作でさえも不自由を感じてしまうことがあります。

むやみに脅かすのは良くないですが、“若くても心不全が悪化してしまうと、簡単な動作や作業ですらできなくなる。だから心不全の原因となる疾患のコントロールや発症の予防を心がけることが重要だ”ということをうまく伝えられると良いと思います。

予防、早期診断、早期治療も大切ですね。

中村 私が製品マーケティングを担当している糖尿病の分野でも、同様のことが言えると思います。糖尿病治療のゴールは、健康な人と変わらないQOLと寿命の確保です。それを成し遂げるために重要なのは、合併症を起こさせないこと。これは大血管障害も微小血管障害も同じです。

そして、合併症を防ぐために血糖や脂質、血圧をトータルに管理する。ただし、入り口は血糖です。最終的に成し遂げたいのは合併症を抑制し、健康寿命を確保することで、そのために食事療法、運動療法に加え、薬物療法が存在します。

糖尿病と心不全との関わりで申し上げると、今年3月に開催された日本循環器学会の学術集会の中で心不全の診療ガイドライン改訂が発表されましたが、心不全を合併している2型糖尿病、それから心不全予防についても診療の方針が変更されることになりました。

第2回終わり(第3回に続く)