当日は満席となり、健康長寿に関する関心の高さがうかがわれた。今回は、第1部講演の中から、大阪大学大学院医学系研究科 先進幹細胞治療学 共同研究講座特任教授の宮川繁氏による講演2「ここまで進化した医療の最先端~再生医療がもたらしたもの~」と、大阪大学大学院医学系研究科 循環器内科学教授の坂田泰史氏による講演3「心臓を長持ちさせる秘訣って、なに?」をレポートする。

■ 講演2
「ここまで進化した医療の最先端~再生医療がもたらしたもの~」
大阪大学大学院医学系研究科 先進幹細胞治療学共同研究講座 特任教授 宮川繁 氏

すでに実用化された
筋芽細胞シートによる心不全治療

心不全の治療は軽症の場合、薬やペースメーカーを用いて行われ、重症化に伴って補助人工心臓や心臓移植などへと移行する。ただし、補助人工心臓はお腹からケーブルを出す必要があり、そこから菌が入るリスクや機器が高額などの問題がある。心臓移植については、米国で年間約3000例の手術が行われているのに対し、日本はドナーが少ないために年間40例程度にとどまる。心不全の重症患者を救う手立ては、極めて限られているのが実状だ。

そこで人工心臓や心臓移植に代わる新しい治療法として、期待されているのが再生医療だ。心不全の再生医療については、患者本人の筋芽細胞から作られた細胞シートを使う治療法がすでに確立されており、さらにiPS細胞の臨床活用を目指した研究も進められている。

筋芽細胞シートは、東京女子医科大学教授の岡野光夫氏が開発した細胞シート技術を活用したもので、患者の足の筋肉から筋芽細胞を採取し、培養皿の上で細胞を増やして1枚のシートに仕上げる。このシートを弱った心臓の表面に貼り付けると、シートからタンパク質「サイトカイン」が出て心臓に作用する。その結果、弱っていた心臓の血管が再生されて血行が良くなり、心臓の筋肉が蘇ってくる。手術自体は1時間半程度で終わり、心臓の手術としては簡単なものだ。

2014年に筋芽細胞シートを使って治療した22歳の女性の場合、手術前の心臓が360ccにまで膨らんでいたのに対して、術後は159ccと半分以下に縮んだ。6分間歩行の距離も407mから568mへ大幅に伸びるなどの成果が出ている。

心筋シートによる治療は、大阪大学医学部での治験により安全性と有効性の高さが認められて保険適用となっており、虚血性心筋症による重症心不全患者に対する世界初の再生医療製品として普及し始めている。現在は、より非侵襲的な治療法として、筋芽細胞シートから出るサイトカインを採集した作った錠剤を投与する治療法の研究も進められている。

期待される
iPS細胞を活用した新たな治療法

重症心不全に対する新たな治療法として、iPS細胞から作った心筋細胞シートを使う試みが進められている。心不全の治療に心筋細胞を使うには、患者1人あたり1億個以上と大量の心筋細胞が必要になる。そこで大阪大学の研究チームは、東京女子医科大学との共同研究により、ヒトに移植可能な安全性の高い心筋細胞を大量に自動作製する装置を開発した。心筋細胞シートを使う治療法は、筋芽細胞ではなく心臓の細胞そのものを補充するため重症化した患者にも効果を期待できること、他人由来のiPS細胞を活用するのでコストを抑えられるなどのメリットがある。

心不全患者に対する臨床応用については、大阪大学の「特定認定再生医療等委員会」による審査の結果、2018年2月28日に心筋細胞治療の妥当性が承認された。今後は厚生労働省による審査で承認されれば、世界初となる臨床研究が始まる予定だ。将来の話になるが、仮に心臓そのものをiPS細胞で作製できれば、心臓移植に関するドナー不足は解消可能となる。

また、iPS細胞を使った心不全に対する特効薬の開発にも期待がかかる。遺伝性の心不全患者から採血し、疾患特異的iPS細胞から心筋細胞を作って心不全の心臓の筋肉を再生する。この筋肉に様々な薬を試していけば、心不全に効果のある薬が見つかる可能性がある。