■ 講演3
「心臓を長持ちさせる秘訣って、なに?」
大阪大学大学院 医学系研究科 循環器内科学 教授 坂田泰史 氏

なぜ心臓は病気になるのか

心臓は1分間に約70回鼓動している。これを元に寿命を90年と想定するなら、心臓は生涯で約33億回も鼓動し続ける計算になる。健康長寿のカギは、心臓を元気に長持ちさせることだ。そのためには心臓の病気にならないように、心臓についてあらかじめ知っておく必要がある。心臓の病態は大きく2つある。1つは心臓のポンプ機能が弱まる心不全であり、もう1つは予期せぬ突然死だ。突然死はともかく、心不全は避けられる。

心不全は徐々に進行する病気であり、表面上は何の症状も出ていなくとも、様々なリスク要因により心臓機能が悪化し始めている人は多い。ただ、心臓は体の中核となる臓器だけに、少々悪化したとしても、それ以上の悪化を防ぐように体全体で抵抗する。問題はそれでも抗しきれなくなったときで、ポンプ機能に何らかの異常が起これば心不全の症状が表面化する。

循環器内科では、心不全を4つのステージに分類し、ステージAからB、C、Dへと徐々に悪化するものと定義している。ステージDまで進行すると突然死のリスクが高まり、補助人工心臓や心臓移植、あるいは再生医療に頼らなければならない。そこまで悪化させないために、適切な治療を施してできればステージB、悪くともステージCの段階で留める必要がある。

ステージBは、心臓が肥大してポンプ機能が低下し、身体各部へと送り出す血液の量(心拍出量)が落ちた状態である。各臓器や筋肉が受け取る血液量が低下し、症状が進行すると血圧が下がり始める。ところが、人体にはこうした変化に対応して血流を増やすメカニズムが備わっている。「レニン-アンジオテンシン」と呼ばれるホルモンが通常より多く分泌され、血管を締めつけて圧力を高める。

ただし、その結果、心臓の筋肉がさらに肥大する。肥大した心臓にはより多くの酸素が必要となるが、十分に行き渡らないとポンプ機能がさらに低下する。その結果、心拍出量が一層低下し、レニン-アンジオテンシンがより多く分泌される悪循環に陥る。

こうした症状を改善するために用いられるのが、レニン-アンジオテンシンの分泌を抑えるエース阻害薬や、交感神経系を抑えるβ遮断薬だ。心不全の症状が少しでも出てきた場合には、こうした薬をきちんと服用することが、心臓を長持ちさせる秘訣になる。

より早い段階でリスクを抑える

ステージBにならないためには、心臓のポンプ機能に影響を与える4つの因子の悪化に注意したい。第1の因子は心臓の筋肉に血液を送り込む冠動脈である。第2が心臓を規則正しく動かすための電気伝導系、第3が心臓の弁や4つの部分を分ける構造、そして第4が心筋そのものである。

心臓にとって最も重要なのは酸素と栄養である。これを供給する冠動脈が動脈硬化を起こすと狭心症や心筋梗塞となる。電気伝導系の異常により心房細動などが起きると、本来規則正しくあるべきリズムが乱れてしまう。さらに大動脈弁に石灰化などが起こると動きが悪くなり、急性心筋梗塞を引き起こす。

4つの因子に悪影響を与えるリスク要因は何か。最大のリスク要因は加齢に伴う老化であり、こればかりは避けようがない。他に要因となるのは高血圧、脂質異常、糖尿病などの生活習慣病であり、これらが積み重なると心不全のリスクは高まっていく。これら要因が相まって心臓に慢性炎症を引き起こす。

従って心不全を防ぐためには、高血圧、脂質異常、糖尿病などの疾患を適切にコントロールしていかなければならない。喫煙は心不全の原因となる慢性炎症を引き起こす。まさに百害あって一利なしである。

喫煙をやめて、塩分の過剰摂取を控える。食事に気を配り、運動を習慣づけ、規則正しい生活を送る。少しでも心臓の悪化を感じた場合は、できる限り早く医者に相談して、薬を使う。残念ながら心臓を長持ちさせる秘訣に王道はない、これが結論だ。