官から民へ――。国家の宇宙開発機関は、次の開発先のターゲットとして月や火星を見据え、地球近傍軌道(地球低軌道)の宇宙開発を民間企業に担わせようとしている。欧米で宇宙関連ベンチャー企業が生まれ、遅ればせながら日本でも、ベンチャー企業が育ってきたことが背景にある。


 このトレンドに合わせて、日本の宇宙開発機関である宇宙航空研究開発機構(JAXA)が変わろうとしている。地球低軌道での活動で得てきた技術やノウハウ、資産を民間に開放し、宇宙分野に閉じることのない新たなイノベーションを起こそうとしているのだ。


 地球低軌道を民間企業が使うことで、何ができるのか。そのために、JAXAが取り組むべき課題は何か。JAXA 理事・有人宇宙技術部門長で、宇宙飛行士の若田光一氏が、外部識者たちとの対談で探る。


 今回はその第1弾。国際宇宙ステーション(ISS)の日本の実験棟「きぼう」からの小型衛星放出事業を行う、三井物産のモビリティ第二本部 航空・交通事業部 航空事業室長である大山洋平氏、SpaceBD社長の永崎将利氏と、民間企業が宇宙ビジネスを進める意義や苦労について話した。

可能性は無限大、新ビジネスモデルが次々と

若田:2018年11月15日に宇宙活動法が施行されました。2019年はJAXAにとっても世界各国の宇宙関係者にとっても重要な年であり、地表からの高度が2000km以下となる地球低軌道での人工衛星を、今後どのように活用していくのかを検討しているところです。


 また、ISSの有人実験施設「きぼう」も、2019年には軌道上組み立て完了から10年目を迎えます。今後は、「きぼう」の船内実験室や船外実験プラットフォームなどを民間の方々に更に活用していただき、地球低軌道での事業を展開していただきたいと思っています。


 三井物産とSpaceBDは、「きぼう」からの超小型衛星放出事業に着手なさいましたね。まず、宇宙ビジネスを始めようとした動機や目的などについて聞かせてください。


大山:三井物産では1980年代に、日本におけるスペースシャトルのエージェントになるなど、以前から宇宙には関わってきましたが、一時期宇宙産業が停滞していると判断し、小休止していた時期がありました。ところが、ここ数年の間に宇宙産業の活性化が見られ、さまざまなビジネスモデルが考えられるようになってきたことから、弊社でも再び宇宙で何かビジネスができないかと考えるようになりました。


 当初は私も、宇宙ビジネスに関して半信半疑でした。なぜなら総合商社は、大量輸送用のファシリティやサービスを提供することには長けていますが、少量多品種による宇宙での物流に私たちの事業スタイルが合うのかという点で違和感があったのです。


 一方で、以前アフリカ関連事業に携わったとき、2050年にはアフリカの人口が50億人になり、人類全体で食料が足りなくなる可能性があるという話をしていました。同じ頃にJAXAの方から、2050年くらいには地球人は宇宙に出て行かなければならないというプレゼンを聞き、なにか符合するなと感じていました。


 そして2018年3月、衛星ライドシェア事業(世界各国の様々なロケットの衛星打上機会を衛星事業者に提供する事業)の世界最大手である、米国のSpace Flight Industriesに出資しました。JAXAさんの「超小型衛星の放出機会提供」の話を知ったのも、Space Flight Industriesへの出資を検討していた頃です。


 両者のサービスを合わせると、1kgから500kgくらいまでの人工衛星を扱う事業が提供可能になり、ビジネスの拡大も視野に入れられると感じました。このような背景から、宇宙ビジネスをやってみようかという話になりました。


永崎:私は、宇宙は科学技術の象徴であると共に夢と挑戦の象徴であると考えています。その宇宙を舞台にビジネスパーソンとしての本懐を遂げようと。自身のキャリアから宇宙商社というコンセプトが頭に浮かび、志を共有することができた投資家の赤浦徹氏と共に、2017年の9月に宇宙ビジネスを進める会社を設立しました。


 当初、さまざまな人に宇宙ビジネスに関してヒアリングを行い、まだ誰も儲かっていないと分かったのですが、それはむしろチャンスであると捉えてスタートしました。特に、超小型衛星の伸びには可能性を感じました。


 将来的なことを考えれば、宇宙ビジネスには旅行もあれば低軌道のみならず深宇宙への物資の輸送もあり、移住もあるでしょう。そうやって、宇宙を舞台に経済圏ができてくるはずだし、できなければならないと思っています。経済性が伴わなければ、一過性に終わってしまうからです。


 そして私は、人は宇宙に向かう、それは根源的な人の性によるものだと思っています。ですから、宇宙で経済を回していくことは必然であると思っています。ただ、何をどうすればうまく回っていくのかは、私にもまだ分かっていません。実際に自分で宇宙ビジネスを始めてみて、可能性は無限にあると思うと同時に、こうすればこうなると簡単にはいえない現状があると思っていて、それを認識しながら一歩ずつ前に進んでいるという心境です。

国の資産の利用が宇宙ビジネスへの近道

若田:宇宙ビジネスを成功させるステップについて、どのように考えていますか。


大山:今、いろいろなところで考えられている宇宙利用は、「地球のための宇宙利用」とよく言われています。私たちが得意とする大量輸送に関わるビジネスは、その先にある「宇宙のための宇宙利用」が進まなければ、成功は難しいと思っています。そのために、火星のテラフォーミング(地球化)に期待しているのですが、それはまだ、いつになったら実現されるかわかりません。


 では、現時点でどう一歩目を踏み出していけばいいか。こう考えて、たどり着いたのが人工衛星の宇宙空間への輸送です。今後10年間で膨大な数の人工衛星が打ち上げられると言われていますが、これらの人工衛星をどのように安全且つ確実に宇宙に運ぶかが一つの課題と考えています。さらに、既に多くの衛星が宇宙に存在している中、今後は寿命が尽きる頃にデブリ(宇宙ごみ)となった人工衛星を如何に回収するかも今後の焦点になると思っています。


 当面は人工衛星周りのビジネスを考えながら、人工衛星や宇宙ロケットの活用方法として、どういったものが商業的に潜在性があるのかを見極めた上で、次へのステップを踏み出していきたいと考えています。


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