クラウド上のサービスを業界ごとに共同利用するための基盤を「インダストリークラウド」あるいは「業界クラウド」と呼ぶ。2019年2月に開催されたB2B Summit 2019(DNX Ventures主催)のパネルディスカッションでは、それぞれ建設業界、薬局業界向けのクラウドサービスを提供するオクト、カケハシの2社が登壇。デジタル化による業務改善が進んでいない業界で、インダストリークラウドによってデジタル化が加速する様子について話した。


 今回登壇したオクト代表取締役の稲田武夫氏、カケハシ代表取締役CEOの中尾豊氏の眼からは、それぞれの業界の弱点が鮮明に見えていたようだ。オクトの稲田氏には、建設業界が「業界規模が大きく、ITに弱い」という印象を受けたという。しかも、就業者の減少が著しく、高齢化も深刻だ。人手不足が今後ますますクローズアップされるのは間違いなく、効率化が求められると感じたのである。作業現場をみると、監督者が配下の作業者をマネジメントするという点ではITのシステム開発に似ているのだが、ITでは当たり前のプロジェクト管理ツールが入っておらず、生産性改善の余地があった。


 カケハシの中尾氏は武田薬品工業の出身で、MR(医薬情報担当者)の経験から、医療従事者と患者との情報格差を実感したという。また、薬局については中長期的にコモデティ化していく方向にあることも強く感じた。サービスが標準化され、特殊な技能や資格がなくても「誰でも」薬を提供できるようになる可能性がある。そのような業態になると、仮に大手ECサイト運営者が参入すれば、既存の薬局は一気に破滅的な状況に追い込まれるかもしれないと考え、薬局側の立場に立って「先に仕掛ける」という道を選んだ。まずは薬局を訪れる患者の体験を良くすることを目標と定め、400人くらいを対象に改善ポイントを探っていったという。

「現状と理想のギャップ」を見逃さず

 両社に共通するのは、適切な参入タイミングを見極めたことだ。カケハシの中尾氏が注目したのは、2015年10月23日に厚生労働省が打ち出した「患者のための薬局ビジョン」。このビジョンでは、「かかりつけ薬局」という方向性が示され、薬局に対して患者を深く理解することを求めた。従来の薬局が、病院の近くで営業し、医師の処方箋をもとに薬を販売していたからすると、大きな方針転換である。中尾氏は、現状と理想に大きなギャップが生まれたことを感じ、ここが勝負どころと判断、一気に攻勢をかけた。


 監督官庁の動きに反応し、すばやく動いたのはオクトも同様だ。同社の稲田氏は、国土交通省による「中古物件を流通させないといけない」という施策に注目、広い建設業界のなかでもリフォーム業界向けのプロジェクト管理ツールをまずは手がけることにした。

「LIKEよりもLOVE」の文化を醸成

 建設業者、薬局はそれぞれの分野の専門家であるが、ITについては必ずしもスキルが高くない。現場担当者にツールを浸透させるにはそれぞれ工夫があったようだ。


 中尾氏によると、現場情報を記録するシステムとしては既存のものがあったという。そうなるとリテラシーというよりも「変化を嫌うケースが多い」。そこで中尾氏が考えたのは、「未来に共感」してもらうこと。社長を口説き、社長から社員にスピーチしてもらうなどして使う人に「変わる必要がある」という意識を植え付けた。


 稲田氏はオフラインのイベントを駆使し、口コミによるネットワーク効果に期待した。大口の顧客には説明会を繰り返し行い、使い方を丁寧に教え、ファンを増やしていく戦略である。


 「業界が狭い」ことに対する注意点もあるようだ。中尾氏は「悪いレッテルを貼られるのが怖い」と考え、初期の時点では積極的に営業を仕掛けることをやめ、まず使ってもらい、製品の機能の完成度を高めることに注力した。中尾氏は「LIKEよりもLOVEの文化づくり」と表現する。


 稲田氏は、「狭いとはいえ、小さなネットワークの集合体。あるネットワークの評判が良くないとしても割り切ることが、精神衛生上大事」とした。


 インダストリークラウドの運営者は、次の手をどのように考えているのか。「米国では、ユーザーのデータを集めたプラットフォームを構築して、そのプラットフォームを使ったビジネスを展開するケースが多い」(モデレーターを務めたDNX Venturesの倉林陽氏)というが、2社の場合はどうか。


 稲田氏によると、施工中の写真が毎日2万枚アップロードされているという。そこには職人に関するデータもあれば現場の品質や建材に関するものもある。こうした「人、モノ、金」を流動化させていく方法を考えているとした。


 中尾氏は「利便性だけでなく薬が安全・安心かどうかを重視する」という。そのために日本人のデータを集めてエビデンス(論拠)を導き出し、「論文化していきたい」とした。医師が参考にするデータを提示し、適量で最適な薬の処方を目指していくとした。


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