データあるところに活用のニーズありーーウエアラブルデバイス、高性能なカメラなどにより、スポーツ分野でも様々なデータを比較的容易に収集できるようになった。これを受けて、競技専用のデータ分析ソリューションも出てきている。


 例えば2018年9月、テニスの大坂なおみ選手が日本で開催された「東レ パン・パシフィック・オープン・テニストーナメント」に参加した時、当時コーチを務めたサーシャ・バイン(Sascha Bajin)氏はWTA(女子テニス協会)公認のタブレットで相手選手のデータを見たり、大阪選手のサーブの位置などを見たりしていた。WTAでは試合中にコーチのアドバイスを受ける“オンコートコーチング”が認められている。大阪選手と決勝戦で戦ったカロリナ・プリスコバ(Karolina Pliskova)選手の場合、コーチを務める父親がオンコートコーチングでプリスコバ氏にタブレットを見せながら指示を出していた。


 同じく2018年6~7月、ロシアで開催されたサッカー「2018FIFAワールドカップ」は、デジタル化という点で大きく進んだ大会となった。VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)を利用した判定が導入されたほか、各チームにはスタンドにいるアナリスト、ベンチにいるコーチにそれぞれタブレットが配布された。その前には、前回の優勝チームであるドイツが、データ分析によりボール保有率やパスなどのデータを活用してチーム作りを進めていたことが大きな話題となった。


 この、スポーツとデータの架け橋となっているのが、データアナリストだ。スポーツのデータアナリストの需要は大きい。そもそもスポーツの潜在市場は巨大である。Forbesが毎年発表する「市場価値の高いスポーツチーム」ランキングによると、トップのダラス・カウボーイズ(NFL)は48億ドル、2位のマンチェスター・ユナイテッド(サッカー)は41億2300万ドルと、スポーツで巨大な金額が動いている。パフォーマンスを少しでも上げることができれば、さらなるファン、そしてスポンサーの獲得につながる。そこで主要なスポーツ競技のチームの多くが、データを分析するスポーツアナリストを抱えるようになってきている。

収集と分析だけではだめ、伝える力が必要

 日本におけるスポーツアナリストの第一人者と言えるのが、渡辺啓太氏である。バレーボールのアナリストを務め、この分野を広めるべく日本スポーツアナリスト協会(JSAA)を2014年に立ち上げた。


 スポーツアナリストといっても、データを分析するという点では、ビジネスにおけるデータ分析と類似点が多い。例えば、スポーツアナリストの必須スキルについて渡辺氏は、まず「正確な情報収集力と分析力」と「伝達力」を挙げる。


 「正確な情報収集力と分析力」とは、正しいデータを集め、分析し、それを伝えるというものだ。データの収集や分析の部分は技術により楽になったが、一方で次々と出てくる最新技術とどう付き合うかは課題の一つとなる。


 JSAAが2019年1月に都内で開催したイベントで、渡辺氏は自身の経験を語った。2016年のリオデジャネイロ・オリンピック、渡辺氏がアナリストとして支援していた全日本女子バレーボール・チームはメダルを期待されていた。「世界で一番身長が低いチームが表彰台に立つというのは、ミラクルストーリーでしかない。そのミラクルを成し遂げる可能性を少しでも高めるために何が必要かを考えた」と渡辺氏。


 そこで、勝敗を大きく左右する“セッターがどこにボールを出すのか”の予測にAIを活用することにした。それまでは過去のデータを並べるアプローチだったのに対し、将来を予測するという点で根本から異なる。技術パートナーと共に、大量のデータを使って次にボールが上がる可能性が高いのはどこかを予測するシステムを構築したが、結局使わないことにしたという。「予測が的中する確率は、コーチやアナリストによるものだと40%前後。これに対してAIの場合、いいときは60%だが悪い時は20%と差がありすぎた」と振り返る。


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”自分にしかできないこと”を提示せよ

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