大企業かスタートアップ企業かを問わず、新事業開発の現場では、新しい技術を進化させ適用を試みる技術起点のアプローチではなく、「社会の課題を見つけ、適切な技術を対応させて解決を図る」という課題起点のアプローチが広がりつつある。


 毎年1月に米国ラスベガスで行われる消費者向け技術のイベントCESでは、今年初めて回復力を意味する「Resilience」がテーマに上がった。世界各地で猛威を振るう自然災害はそもそも制御不能、そして年々複雑化・巧妙化するサイバーテロは完全に抑え込むことが難しい。CESが示したResilienceは、そうした災害が存在することを前提とし、災害が生じた時に被害を最小限に抑えるための技術、あるいはそこからいち早く立ち直るための技術にスポットライトを当てようというものだ。


 世界規模の課題に目を向けようという動きは、社会の持続性に向けた取り組みSDGs(Sustainable Development Goals)の世界的な広がりとも連動する。


 また、毎年3月に米国オースティンで行われるテクノロジーとアートの交流イベントSXSWのような著名人が集まるグローバルイベントでは、技術開発の進展は本当に社会や人々の幸せにしているのだろうか、といった議論も盛んになっている。


 半導体の進化ペースを示す「ムーアの法則」に従って、コンピュータが民主化されたことに代表されるように、技術の進化は社会の進化と繁栄につながる――テクノロジーに関わる多くの人が、こう信じて疑わず、各方面に最新技術の適用を進めてきた。そうした技術進化や適用に疑問を投げかける動きは、これまでにはないものだ。

80カ国から参加者、世界中の課題が見えるイベント

 SXSWとほぼ同じ時期にフランス・パリで開発された「Hello Tomorrow Global Summit」は、世界各地の社会課題とその解決策を見ることができる場の1つである。イベント参加人数は3000人ほどとそれほど大きな規模ではないが、参加者の出身国は80カ国に上る。科学的に裏付けられた解決策に焦点を当てていることから、300人の博士課程の学生やポスドク、200人の科学者が参加するという点でもユニークなイベントだ。こうした研究者・科学者たちと、投資家や事業会社の事業担当者が顔を合わせる貴重な機会でもある。


 社会課題を浮き彫りにするHello Tomorrow Global Summitにおいて象徴的な活動が、世界各地の研究者・科学者らによるスタートアップ企業が参加するコンテスト「Hello Tomorrow Global Challenge」である。全世界で応募があった4500社のうち80社に対して、パリでの最終発表の機会を与えられた。


 そしてイベント期間中、「データとAI」「インダストリー4.0」「デジタルヘルス」など12領域ごとに開催された予選を勝ち上がった12社が最終日に1分間のピッチを行い、最優秀企業を選出する。その多くが、世界規模あるいは地域特有の社会課題を示し、科学的なアプローチによって解決を図ろうとしている。


予選を勝ち抜いた12社による1分間のピッチ

 今回のGlobal Challengeで優勝したのは、ウェルビーイング(Wellbeing)部門を勝ち上がったナイジェリアのRxALL。同社が開発した携帯型のスキャナー「RxScanner I」を用いて、薬の品質を判別する。開発チームは、米国イェール大学の出身者たちだ。同社の創業者でCEO(最高経営責任者)を務めるAdebayo Alonge氏は「年間100万人もの人たちが、フェイクドラッグ(偽造薬)で命を落としている。我々のソリューションは、薬の正誤を簡単に見分けることにより、そうした人たちの命を救うものだ」という。


優勝したのはナイジェリアのRxALL

 RxALLには、賞金として10万ユーロ、そして派手な演出のもとで多くの称賛が贈られる。コンテストの聴衆の多くは、投資家や企業の事業開発担当者。それぞれが持つ技術や資金、人的リソースを投下して、スタートアップ企業の支援を図る。

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 同社のほか、11分野を勝ち抜いたのは以下の企業である。Ae

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