所有から利用へ。もの売りから、サブスクリプションモデルのサービスへの転換は、様々な領域で進んでいる。この流れが、デジタル化の勢いに乗って、ものづくりの根幹となる工場にまで及ぼうとしている。工場の土地や施設、機能までをサブスクリプションモデルで提供する「FaaS(Factory as a Service)」がそれだ。


 商品を生産するために自前の工場を持つ場合、土地はもちろん、建屋、電源、製造装置や産業ロボット、それらを制御するための情報システムとネットワークなどを整えなければならない。受注や納品、原材料の調達といった、いわゆるバックオフィス系の仕組みも必要になる。これらの仕組みなくして、工場としては成り立たない。当然のことながら、この仕組みを構築・運用するにはコストがかかる。そのための資金力がなければ工場を持つことは難しい。


 ただ、デジタル技術は、そんな従来の常識も覆しつつある。自身で設備を所有することなく、それでも最新の設備を使い、自身の技術を生かしたものづくりを実践する――。そんな環境を実現できるようになってきている。それを支えるのが冒頭に挙げたFaaSである。


 そして、このFaaSを東南アジアから展開しようとしているのが、日立ハイテクノロジーズだ。同社は2018年7月、タイで、土地開発大手のアマタと合弁会社「Hitachi High-Tech Amata Smart Services」を設立し、Smart Factory as a Service(以下、SFaaS)の立ち上げに着手した。アマタと組んだのは、同社が管理する土地を利用するためと、タイ国内での各種手続きをスムーズに進めるためだ。

日立ハイテクがタイに設立したスマート工場

技術力のある中小企業を世界へ

 SFaaSの対象ユーザーは、主に中小規模の部品メーカー。典型例が大手完成品メーカーの下請けを主な事業としている企業である。


 いまや大手メーカーは、必ずといっていいほど工場の海外展開を進める。ところが下請け企業は資金力が乏しいケースが多く、安易には海外進出はできない。だからといって製造現場を日本に置いたまま下請けを続けようと思うと、輸送コストが重荷になる。それを製品価格に転嫁すれば競合とのコスト競争に負けることになりかねない。元請けの海外展開が、中小企業にとっての事業機会の喪失につながることは珍しくない。


 「技術力はあるのに……」


 特にこうした悩みをかかえがちなのが、2代目を継いだ若手経営者である。ITリテラシーがあってデジタル化にも前向き、もちろん新しい試みに挑戦する気概もある。それでも海外進出の負担は大きい。この状況では国内の工場へのデジタル化投資もおぼつかない。


 製造装置や検査装置、部品などをメーカー企業向けに提供してきた日立ハイテクは、こうした企業からの悲痛な声をたびたび耳にしてきた。何か方策はないか。そう考えたときに浮かび上がったのが、シェアリングというスタイルだった。


「1社で海外に進出できないのなら、工場そのものをシェアリングモデルにしたらどうか」
「川上から川下に散らばっている資金を集めて再分配するという考え方はできないか」
「日本にいる技術者と現地スタッフをオンラインでつなげば、海外の工場でも日本品質を実現できるはずだ」


先端産業部材事業統括本部事業戦略本部の高橋伸彰・本部長
(撮影:湯浅 亨)

 エレクトロニクス専門商社で部品や素材の卸売を手がけていた日製産業をルーツとする日立ハイテクにとって、商品提供形態の工夫は自然な発想。リース契約する、いったん購入した製品をレンタル業者に売却してから借り受けるといった、金融面の工夫も経験している。「その新しいパターンとして、工場そのもののシェアリングというモデルに行き着き、海外でSFaaS事業を企画した」(先端産業部材事業統括本部事業戦略本部の高橋伸彰・本部長)


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