※ iPhone XSの可能性は「写真」で説明できる(出典:Apple)

 Appleは9月12日に開催したイベントで新型iPhoneを発表した。しかも、その中で他社が追いつけないほどの圧倒的な競争差異を見せつけた。そう書く理由は心臓部に当たる「A12 Bionicプロセッサ」にある。


 AppleのAシリーズプロセッサは、省電力性と業界随一の処理能力を誇り、2018年に登場したAndroidスマートフォンよりもパフォーマンスが高い。しかも、きちんとバッテリーは丸1日使っても消費しきることなく、ARアプリにも難なく対応してきた。


 今回のプロセッサの処理性能やグラフィックス性能以上に注目を集めたのがニューラルエンジンだ。名前の通り機械学習処理を行うためのものだが、昨年は1秒間に6000億回だった処理能力を、今年は1秒間に5兆回にまで向上させた。


 正直なところ、この数字の意味をすぐに理解できる人は少ないだろう。Androidスマートフォンと同じ尺度での比較ができないため、「5兆回」に数字のインパクトを超えた意味を判断しかねることもあるはずだ。

ドメイン固有プロセッサにこそ未来がある

 しかし、この進化は大きな価値を持つ。そう説明してくれたのは、シリコンバレーにいるマイクロプロセッサの大家だ。Appleは、彼の予言を実現させているようにすら見える。


 5月にGoogleが開催した開発者向けイベント「Google I/O」で、RISCの父と呼ばれマイクロプロセッサの世界にその名を刻んでいるスタンフォード大学学長、ジョン・ヘネシー氏は、Intelがプロセッサの未来の主導権を握ることはないと説いた。


 コンピューティングのモバイル化と大規模なクラウド環境は、処理性能と消費電力の関係を、よりシビアなものへと変化させた。デスクトップコンピューティングが全盛だった時代は、失敗した計算結果の多くが捨てられていたが、モバイルコンピューティング時代には消費電力との兼ね合いから、より効率的な計算が求められるからだ。


 GoogleはTPUを独自に進化させ、強力な機械学習処理環境を前提とする方向に突き進んでいる。その結果として生まれたのが、あたかも人が喋っているかのようにレストランに電話をかける「Googleアシスタント」の未来像だった。


 Appleは2010年からiPhone向けプロセッサの独自設計を開始した。プロセッサの設計としては新参者だったが、スマートフォンの64ビット化、ニューラルエンジンの内蔵、グラフィックスチップの内製化と、数々のマイルストーンを経て、2018年のA12 Bionicはスマートフォン向けとして初めて7nmプロセスを採用した。


 Appleはスマートフォン向けのiOSを独自に開発しており、そこで何が必要なのか、スマートフォンの未来の体験をどのようにしたいのかという前提を共有しながら、そこに必要な性能をプロセッサの開発に盛りこむことができる。


 そこが、世界最大のモバイルOSを開発するGoogleとも、スマートフォンの世界で最も影響力を持つチップメーカーであるQualcommとも異なる点だ。両者ともにスマートフォン全体を自分たちで作っているわけではないからだ。

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