※ 認知症の早期発見や認知症患者のケアなど、AIの活用領域が広がりつつある。上の写真は、島根大学医学部が推進している認知症早期発見支援システムに関連した解析プログラムの画面(提供:ERISA)

 ミレニアル世代にとって、認知症とはどのような存在なのだろう。近親者にいるならいざ知らず、大半の人にとっては想像すらつかないのかもしれない。しかし、厚生労働省の推計によると、2025年には日本国内で65歳以上の認知症患者数は730万人、およそ5人に1人が認知症発症のおそれがあるという。その後も増え続け、2050年には1016万人になると推測される。すなわち、未来の日本はいま以上に“認知症と向き合う時代”に突入する。

 これを受け、認知症にAI(人工知能)を生かそうとの動きが出てきた。2017年に発表された「保健医療分野におけるAI活用推進懇談会」(厚労省)の報告書では、ゲノム医療や医薬品開発などと並び、介護・認知症がAI開発重点6領域の1つに挙げられている。

AIがフランス発のケア技法をコーチング

 例えば、AI開発のエクサウィザーズは、フランス発の認知症患者向けケア技法として注目されつつある「ユマニチュード」に着目。ベテラン指導者によるユマニチュードのスキルをAIに学習させ、スマホアプリなどによって学習者に伝承していく「コーチングAI」(商標取得済み)の開発に取り組む。

 「見る」「話す」「触れる」「立つ」の4つを柱とするユマニチュードは、ケアする相手にしっかりと届く見方、話し方、触れ方を心がけるもので、これまでの認知症ケアとはアプローチが異なる。まだ指導者も少ないだけに、同社では普及に向けてコーチングAIを活用したいと考えている。

 その内容は学習者の実践動画に対して指導者がアドバイスしていくもので、開発を手がける取締役の坂根裕氏は「動画や音声などの非構造データを分析し、ケアが上手な人たちの暗黙知を形式知化して幅広く共有したい」と話す。AIにより指導時間が短縮されれば、より多くの人がユマニチュードを習得できるようになる。

エクサウィザーズの坂根氏(撮影:小口正貴)

 画像診断支援も熱い領域だ。

 浜松ホトニクスと浜松光医学財団は、日本マイクロソフトと共同で早期の認知症診断支援システムを開発している。奈良先端科学技術大学院大学、大阪大学大学院らによるアバターを用いた認知症傾向の早期発見技術はWindows PCで操作するソフトウエアで、質疑応答の判別に機械学習を採用。92%の確率で認知症と非認知症の判別に成功した。

奈良先端科学技術大学院大学らによるアバターシステム(出所:奈良先端科学技術大学院大学のプレスリリース)

実用化の第一歩となる島根発のAIプロジェクト

 より踏み込んだ事例が、島根大学医学部のプロジェクトである。同医学部では画像診断技術にAIを用いて、認知症の早期発見に役立てようとしている。主導するのは医学部内科学第三、ヘルスサイエンスセンター島根、そして松江市の統計解析会社であるERISA。3者は2017年11月に共同研究契約を締結し、2019年度の実用化を目指して早期認知症画像診断支援プログラムの研究開発を行っている。

 全国でも高い高齢化率を誇る島根県では、ヘルスサイエンスセンター島根が中心となって1988年から脳ドック健診を実施してきた。脳ドックを受診する人たちは健常者であり、5年、10年と継続的に受診して追跡調査を行う。いわゆるコホート研究であり、このデータ群が島根大学の強みとなっている。医学部内科学第三の山口修平教授は「認知機能と脳の形態がどのように変わったかが検証できる。内容や質の充実度から見れば、我々のMRI(核磁気共鳴画像法)画像は日本でもトップレベルだろう」と語る。

 この意見にはERISA取締役 CDO(事業開発責任者)の野津良幸氏も同調する。「同じ人のデータを継続して収集しているのが特色であり、一番の武器。認知機能が変化していくにつれて、どのようにMRI画像が変わっていくのかを比較しながらデータ解析ができるメリットがある」(野津氏)。

 今回の共同研究は30年にわたって蓄積してきたMRI画像をもとにしたもので、脳MRIデータに機械学習を適用。ERISAが統計・分析・解析で協力し、診断支援プログラムを提供する。疾患識別のプログラム作成のため、教師データには米国の「ADNI(Alzheimer's Disease Neuroimaging Initiative)」に蓄積されたMRI画像を採用した。

 教師データには健常者、認知症患者、その中間の症状などさまざまなMRI画像があり、診断レベルが付加されている。これを学習させてパターン化を行いながらプログラムを開発中だ。ERISAとともに現場でプログラム開発にあたる島根大学医学部神経内科の小野田慶一講師は「基本的に、国内では同じようなことを研究しているところはない。かなりの高精度が維持できている」と胸を張る。

 具体的には、進行性MCI(軽度認知障害)の識別技術に注力する。認知症の前段階とも言われるMCIは早期に発見されれば健常な状態に戻ることもある。そこで山口氏らはMCIを早期に識別するプログラムによって、認知症になる前にいち早くその兆候を見つけ出し、医学的な介入によって症状を改善したり、進行を遅らせたりすることができないかと考えた。

 これまでMCIの診断技術には海馬萎縮を評価するVSRAD(Voxel-based Specific Regional analysis system for Alzheimer's Disease)や、脳内異常蛋白の集積を測るPET検査が用いられてきたが、その精度は決して高いとは言えなかった。しかし、同プロジェクトでは、滋賀医科大学(ERISAは滋賀医科大学とも同様の研究開発を行っている)の知見を加味し、臨床医の知見とAIの融合により、臨床の暗黙知を解析プログラムに落とし込むことに成功。正確度85.4%、感度79.2%、特異度88.2%と、従前の技術に比べてかなり高精度で進行性MCIの予測が可能となった。

AIを用いた進行性MCIの識別プログラムの精度比較(提供:ERISA)

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