※ 認知症対策でも、いろいろな側面からのデジタル技術活用が進んでいる。上の写真は、金沢工業大学などが開発したIoTスニーカーのプロトタイプ(出所:金沢工業大学)

 デジタルヘルス分野において、スマホの普及は個人のバイタルデータの可視化をもたらした。これまで高価な専用器具・装置でなければ触れることができなかったデータが、今ではアプリ経由でサクッと閲覧できる。これは何も日常の健康維持に限らない。認知症予防の分野でもアプリによるソリューションが生まれている。

 加齢とともに歩く速度が遅くなる――。これまでは「年を取ったから」で済まされてきた問題だが、急激な歩行速度の低下は認知症の前段階である軽度認知障害(MCI)のリスクが高い可能性があることが、近年の研究成果からわかってきた。

生命保険会社が認知症予防アプリに乗り出す

 この点に着目して、ズバリそのままのネーミングの「認知症予防アプリ」を提供するのが太陽生命だ。アプリでは歩行状況を継続的に測定し、MCIや認知症の予兆リスクが見られた際には本人や家族へ通知する機能を備えている。これまで蓄積した歩行速度データを生かし、2018年10月からは東京都健康長寿医療センターと共同研究を開始。歩行速度のビッグデータから、さらなる予防行動の指標を割り出そうとしている。

 同じく生命保険会社の日本生命は、アマゾンのスマートスピーカー「Alexa」用のスキル(スマートスピーカー向けのアプリ)として「ニッセイ脳トレ for Amazon Alexa」を提供する。認知症研究のベテランである医師の朝田隆氏が監修し、1日3分、Alexaに話しかけてクイズ形式で脳トレを行う。このスキルもMCIの予防として活用するのが狙い。より手軽な音声対話、しかもスキマ時間を使って行うことで継続性も高くなる。

 海外ではより進んだアプリの事例も出てきた。脳トレゲーム、運動、食事・栄養管理などを包含した認知症予防アプリを提供するスコットランドのMindMateは、オーストラリアのバイオテクノロジー企業と提携。認知症の1つであるアルツハイマー病抑制剤の臨床試験の際に、MindMateのアプリを使って迅速に患者を特定することに役立てる。

 金沢工業大学やミテネインターネットらは、センサー搭載のスマートスニーカーで歩行状態を計測し、IoT向けの無線通信技術である「LPWA」を活用してモニタリングするシステムの研究開発を行う。スニーカーの中敷きに組み込まれるのは織物の圧縮特性を利用したテキスタイルセンサーで、歩行時の圧力を電気信号として検知。履くだけでいいため、高齢者にも無理なく利用できるのがポイントだ。これにより活動量を的確に把握して歩行を促し、認知症予防や健康寿命の延伸につなげる。

 IoTにブロックチェーン、そしてスマートスニーカーと、さながら最新テクノロジーの博覧会のような認知症予防の仕組みを開発したのが沖電気、ZEROBILLBANK JAPAN(以下ZBB)、no new folk studio(以下nnf)の3社である。加速度センサーや角速度センサー、無線通信機能を組み込んだスニーカーを通じて、スマホアプリよりも繊細に歩行異常をキャッチして分析する機能を軸に、行動変容までを見据えた。

沖電気など3社によるスマートスニーカーを用いた認知症対策(出所:沖電気)

 センサー技術にはnnfの「ORPHE TRACK」、行動変容へのインセンティブ・ポイントにはZBBと沖電気が共同開発したブロックチェーン技術に基づく「Yume Coin」を採用。2018年8月からは実証実験を開始した。健康づくりや病気の予防では行動変容を起こさせるまでの過程が最もハードルが高い。デジタルを駆使したこの仕組みがどこまで人間の心に作用するかが見ものである。

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