※ デジタル社会の負の側面として指摘される「デジタル認知症」。上の写真は世界保健機関(WHO)によるゲーム依存の画像(出所:世界保健機関)

 ネットの利用が当たり前になるにつれ、我々はいつでもどこでもすぐに検索するクセがついてしまった。忘れたら調べればいい。キーワードの断片(例えば“あのドラマに悪役で出ていた俳優”など)さえ覚えておけば、お目当ての情報にたどり着ける。現代人にとってネットにある情報は“容量制限のない知識の外部ストレージ”であり、検索結果が脳の片隅にある記憶を掘り起こしてくれる。

 こうした行動は、記憶に関わる脳の海馬の働きを衰えさせる。人や固有名詞の名前が思い出せない、ちょっとした計算ができないなど、高齢者でなくても日常生活で記憶力低下を感じている人も少なくないはずだ。

 これら過度なデジタル機器やネットへの“依存”による弊害を「デジタル認知症」と呼ぶ。韓国の医師グループが2007年に発表した調査結果で初めて言及したとされ、ドイツの脳科学者であるマンフレッド・シュピッツァー氏の著書『デジタル・デメンチア―子どもの思考力を奪うデジタル認知障害』(講談社)で有名になった。

 同著の中でシュピッツァー氏は、すべてをデジタル機器の補助に頼ることで、明らかに桁数が異なる簡単な計算間違いにすら気づかなくなってしまう怖さを指摘。物事が忘れっぽくなることもさることながら、本来であれば身についているはずの空間認識能力や作業能力、思考能力が衰えてしまうことに警鐘を鳴らす。

ゲーム依存が病気に認定される時代

 “ネトゲ廃人”の言葉もあるように、とくに若年層にとってゲームはネット依存への入り口となる。2018年6月には、世界保健機関(WHO)が「ゲーム障害」を現代病の1つに加え、世界的にもゲーム依存は“病気”として認められた。遡ること5年前の2013年には、米国精神医学会の診断基準DSM-5に「インターネットゲーム障害」が「今後の研究のための病態」として明記されている。

 先に述べた韓国の医師グループはネットやオンラインゲームへの依存により、若者たちに記憶障害、注意障害、集中力障害、一般的な感情の鈍麻が増加傾向にあることを報告している。2000年代、急激にIT大国へと成長を遂げた韓国では、オンラインゲーム依存が社会問題化した。

 2002年には光州市のネットカフェで連続86時間もオンラインゲームを続けた男性がエコノミークラス症候群により死亡する事件が発生。事態を重く見た韓国政府は2011年からシャットダウン制(通称:シンデレラ法)を定めた。これは午前0~6時までの間、16歳未満がオンラインゲームにアクセスできなくなる制度であり、裏を返せばそれだけ膨大なゲーム依存予備軍が存在することになる。

 日本でも同様の研究がある。東北大学の川島隆太教授らのグループは、MRI(核磁気共鳴画像法)などの脳機能イメージング装置を用いて、ゲームの習慣がどのように脳や認知力の発達に影響を及ぼしているかを解析した。対象は健康な5~18歳までの小児や子どもで、3年のインターバルを置いて初回、2回にわたり検査を実施。これを受け、研究チームは「ビデオゲームプレイの長時間プレイが神経系の好ましくない神経メカニズムの発達と言語知能の遅れとつながることが示唆された」との成果を発表した。

 2011年に日本で初めてネット依存治療を開始した国立病院機構 久里浜医療センター院長の樋口進氏は、著書「心と体を蝕む『ネット依存』から子どもたちをどう守るのか」(ミネルヴァ書房)の中で、ゲームを含むネット依存が脳に与えるダメージについて触れている。樋口氏は、中国科学院が行ったネット依存の青少年グループの画像診断を示しながら、ネット依存の期間が長くなるほど白質と呼ばれる大脳皮質下の領域に明らかな異常が見られ、脳内の情報伝達に障害が出ると言及。脳がダメージを受ける度合いは、ネット依存患者もアルコール依存患者や薬物依存患者と同等ぐらいだとしている。

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日本の中高生93万人がネット依存の衝撃

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