いま全国各地で、民間企業主導によるMaaSの実証実験が盛んに行われている。トヨタと西日本鉄道による複数の交通手段を利用した「福岡MaaS」や、東急電鉄が伊豆エリアで実施するシェアリングバスの「観光型MaaS」、小田急電鉄とヤフーの自動運転バスによる「小田急版MaaS」など、鉄道各社も意欲的だ。


 各社が取り組む実証実験は技術確認の意味合いが強いこともあるが、自動運転やシェアサービスなど一部のモビリティ利用にとどまっているケースが多い。


「日本ではまだMaaSの概念が曖昧で、なんのためにMaaSを機能させるかという社会課題対策の目的もはっきりしていない。MaaSの理想形は、あらゆる交通手段を統合・最適化して、予約・案内・決済までシームレスに利用できる新しい交通システムであること。従来からある日本の交通システムの課題に対する新しい一つの解き方になると理解している」。都市交通計画の第一人者で、横浜国立大学理事・副学長の中村文彦教授だ。


 重要なのは民間企業によるビジネス視点だけでなく、MaaSが社会の課題にどう対応していけるか。例えばフィンランドのMaaSグローバルの「Whim」は、地球温暖化対策としてCO2を排出する自家用車の使用を減らして公共交通に移行させる、という社会課題に対する明確な対策目的のもとに機能している。


 また、フィンランドでは予約から決済までを含めてMaaSとするが、これは消費者にMaaSを利用すれば自家用車を使うよりも安く済むことをわかってもらうため。アプリのなかで1カ月や半年の購入金額も提示し、自家用車を所有するより得であることを理解してもらうことではじめて、MaaSを選んでもらえるというわけである。


 中村氏は、2018年12月に設立された日本初の産官学によるMaaS普及促進団体「JCoMaaS(Japan Consortium on MaaS、ジェイコマース)」の代表理事に就任予定だ。産官学の連携を目指す「JCoMaaS」は、中村氏をはじめとした都市交通の課題を研究する専門家と、MaaSで必要となる技術を持つ事業者間の連携を使命とする。そして、これから日本のMaaSに対する“目的”を明確にしていく。

国際競争力のあるMaaS構築を目指すために

 日本の交通システムの課題は、道路混雑、交通事故、環境問題、福祉問題(高齢者、障害者)、景観問題、まちづくり問題など多岐にわたる。都心と地方でも課題は異なるが、MaaSが本領を発揮するのは主に地方だと中村教授はいう。


「交通が衰退が進む地方において、高齢者の外出を促進して健康寿命を伸ばし、医療費負担を減らすことや、インバウンドで観光の満足度を上げ、経済を活性化すると同時に、訪日外国人によるレンタカーなどの交通トラブルを減らすこと、自然災害の際の情報共有、耳や目の不自由な身体障害者の支援などがある」


 解決・支援すべきこれらの社会課題や対象に対して機能するという枠組みのなかで、資金のある民間企業がビジネスとして参入して一気に変えていく。これが日本版MaaS発展のあるべき道筋だ。


 「しかし企業でも自治体でも、そこまでの理解は浸透していない。政府でさえ、いままさにMaaSをどう構築していくかについて議論がなされている段階。私自身も講演会などを多数実施して、理解の普及を図っている。JCoMaaSによる産官学の連携促進も需要になってくる」(中村氏)

ここから先は、DIGITALIST会員(登録無料)のみが閲覧することができます。

次ページ

日本版MaaSでは自治体主導が理想

会員の方は、ログインしてください。
会員でない方は、会員登録(無料)をお願いします。