民間主導で次々に実証実験が開始されるなか、交通、不動産、生活サービスの事業を核に、観光事業を手がける東急グループで大規模な実証実験が動き出した。伊豆の観光活性化を目的とした「観光型MaaS」と東急沿線上の街づくりを見据えた「郊外型MaaS」だ。


 同社は、2018年に新社長を迎え、中期3か年経営計画として、サステナブルな街づくり、サステナブルな企業づくり、サステナブルな人づくりという「3つのサステナブル」を基本方針に掲げている。同社でMaaS事業を推進するのは、2018年4月に新設されたプロジェクト推進部プロジェクトチームの森田創課長だ。


「東急沿線上の住民の多くは10~20年後に定年退職を迎える。デベロッパー事業を軸に置く我々としては、地域開発者の責任として沿線の住民が電車を使わなくなった後も快適に過ごせる街づくりに努めていきたい。MaaSは、街をよりよくしていくための様々な手段のうちの一つになると認識している。あらゆる世代、あらゆるニーズを持つユーザーが快適に暮らせる仕組みを構築し、提供することがMaaSの軸にあると考えている」(森田氏)

住み続けられる街づくりを実現する「郊外型MaaS」

 実証実験では、鉄道・バスが世界でもトップレベルで充実している渋谷や横浜など都心部を除いた地域に的を絞った。それが、「郊外型MaaS」と「観光型MaaS」である。


「郊外型MaaS」の実証実験は、2018年1月下旬から2カ月間にわたって実施した。対象エリアは東急グループが街づくりを手がけてきた、東急田園都市線沿線のたまプラーザ駅を中心とする半径2kmの範囲。リタイア世代が利用する住宅街と駅、現役世代が利用する住宅街と都心を結ぶモビリティ実験となった。


 たまプラーザ駅周辺は、美ヶ丘三丁目など人気の住宅街がある一方で、アップダウンのある地形や住人の高齢化が影響して空き家率が高まってきたエリアでもある。こうした中で、高齢者におけるラストワンマイルについての課題が浮上している。


 70代、80代のリタイアした人々が日常生活で通うたまプラーザ駅近くの病院や商店街のあるエリアは、道が狭く、既存の路線バスが通行できない。東急バスは平均して5分に1台の頻度で運行しているにも関わらず、痒いところに手が届かない状態なのである。そこで今回の実証実験では、既存のバスが運行できないエリアを網羅すべく、15人乗りのオンデマンド型ハイエースを運行した。


 一方で、駅から近い美ヶ丘一丁目、二丁目には現役世代の流入が多い。今後、現役世代にたまプラーザを選んでもらう仕掛けとして、快適な通勤を実現するもう一つ交通手段を提供したいと考え、たまプラーザ駅から都内まで24人乗りのハイグレード通勤バスを運行した。快適な通勤のために、Wi-Fiやトイレを完備した、仕事ができる車内環境を整備。電車を利用するより多少時間がかかるが、その分快適さは高い。


 さらに駅周辺では、1~2人乗りの超小型の「パーソナルモビリティ」を導入。街づくり当初は、安全を守るために車が進入できない細い路地を多く作った。そのために交通の空白地帯が多くできている。パーソナルモビリティは、その2次交通を網羅する目的で導入した。こうしたターゲットや街の特性を踏まえて、それぞれの乗り物の需要を実証実験で総合的に検証した。


「住み続けてもらう街にするために、必要な移動手段を整備していくことが目的。都心に住まなくても満員電車に乗らなくていい街、自分で運転できなくなっても安心して住み続けられる街を実現するモビリティ実験を目指した。短期的には収益にならないかもしれないが、住み続けてもらえれば、長い目で見て東急グループの利益にもつながっていく」

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