2019年4月、伊豆半島で大規模なMaaSの実証実験が始まる。本特集のVol.3で紹介した、東京急行電鉄と東日本旅客鉄道(JR東日本)がタッグを組んで実施する「観光MaaS」だ。開始に合わせてJRグループは、観光誘客、地域活性化を目的とした「静岡デスティネーションキャンペーン」を開催する。


 静岡県はこのプロジェクトで、観光客の滞在時間や移動ルート、流動がどれだけ変化するかという調査を行う。実験期間となる2019年4月〜6月と2018年同時期の流動データを比較し、観光MaaSの成果を明確にしていく目的だ。


 舵を切るのは、静岡県交通基盤部都市局の大倉篤地域交通課長。実証実験の成果次第では観光活性化だけでなく、県内が抱える生活交通の課題解決においても、今回のシステムを活用していくことを検討している。


「静岡県の交通網は、県の東西を走る東海道本線、新幹線のほか、南北にいくつかの鉄道が走っているだけ。県の北縁地域や伊豆半島の西側などでは、公共交通がバスのみという地域が多く、過疎化の進行でバスの路線存続自体が危ぶまれる地域も増えている。また、鉄道があるエリアでも駅から観光地までの2次交通が少ないことが大きな課題」(大倉課長)


 特に北縁地域では、県の補助金がなければ運行できないバス路線や実際に廃線した路線を補うため、市町などの自治体が自主的にバス運行を行っている地域も多い。これらに関わる経費は、年間7億円程度にまで及んでいる。

県が主導する公共交通活性化協議会の功績

 これらの深刻な交通課題解決のため、静岡県は県が事務局となり、国、県、市町、事業者など幅広い分野のメンバーを集めた「南西伊豆地域公共交通活性化協議会」を創設。MaaSの実証実験が予定される以前から、交通課題対策に向けた意識統一を行ってきた。


 こうした背景から、今回の実証実験への協力要請もスムーズだったという。MaaS構築における地域の中小事業者、自治体への理解が難しいとされるなかで、産官学をまたいだ基盤があることが大きな助けなった好例だろう。さらに、実証実験における観光客の流動を確認する調査事業の資金調達も協議会で実現している。


 また静岡県では、地域住民の実証実験認知に向け、開催のPRに取り組んできた。各地域の自治体に依頼し、広報媒体などで地道な宣伝活動を行ってもらっている。


 大倉課長は、「実証実験は、観光客を対象としたもので地域住民は関係ないと思われがちだが、実際には生活交通にも活用できるシステム。積極的に利用してMaaSに対しての理解を深めてほしい」と説明する。特に期待しているのが、下田市で運行予定の、無料のAIデマンドタクシーである。

静岡県が自主的に取り組む実証実験

 MaaSの実証実験でも受け身な自治体が多いなか、静岡県では積極的に複数のプロジェクトを進めている。一つはバス路線のオープンデータ化に関する実験。地域住民の高齢者がどれだけMaaSのシステムに対応できるかを知るため、時刻表など路線データを大手検索サイトなどにオープン化し、デマンドバスを走らせる実証実験を実施した。


 「バスを利用した高齢者のほとんどは、口コミやチラシなどからの認知だった。デマンドバスの予約も基本は電話。こうした現状から見ても、いますぐにデジタル化とはいかないだろうが、スマートフォンを使い始めた60代以前の世代が10〜20年後に高齢者になる頃には、ICT使った予約にも対応できるようになると考えている」


 バス路線全体のオープンデータ化を進めることも課題だ。大手事業者に関しては問題ないが、小規模事業者や市町村の自主運行バス路線に関してはデータ化するシステムが整っておらず、検索データに表示されない路線が多くある。観光、生活の両面における利便性工場のためにも、すべての路線のデータ化を目指すことが早急に求められている。

優れたMaaSを構築のために

 現在、全国各地でMaaSにまつわる実証実験が実施されているが、いずれは一つのシステム、仕組みとして成長していく必要がある。まずは、システムのフォーマットを統一していくことが大切になると静岡県庁は考えている。


 大倉課長は、「複数のアプリが生まれても、システムの基準を定めておけば、自然と統一されていくはず。運行データ、検索システム、地図データなどを、GTFS (General Transit Feed Specification ) といった国際標準的なシステムに統一していくのが望ましい」という。


 そこで重要なのが、国主導の動きだ。「自治体が統一的なフォーマットのアプリケーションを作るというのは難しい。国主導で公共交通における標準フォーマットの使用を義務付けるなどの対策を行ってほしい」と、大倉課長は訴える。

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