社会への実装が前提のアイデアを発掘

 フランスのNPO法人「Hello Tomorrow」による活動が、いま話題を集めている。2011年に設立された同団体は、大学の研究室などから生まれた「Deep Tech」を積極的に発掘して育て、スタートアップ、事業会社、投資家、アントレプレナーらがグローバルレベルでつながるコミュニティの形成を目指す。


 そもそもDeep Tech とは何か。Hello Tomorrowとボストンコンサルティンググループ(BCG)の定義によれば「Deep Techイノベーションとは、独創的かつ複製困難で特許化されている最先端の科学技術を使って構築された、破壊的なソリューション」となる。日本の窓口を務める日本ディープテック協会 理事の渡邊康治氏は「放っておいたら研究室の中でお蔵入りしてしまうような科学的成果は世界中に山ほどある。これを磨き上げて世の中の社会課題解決の解決に役立てることが大きな狙い。そのためにはグローバルで連携することが重要になる」と話す。


 この背景から、Hello Tomorrowでは社会実装を強く意識し、社会への窓となるコミュニティの醸成に力を入れている。活動から8年めを迎えた今では、250以上の大学やインキュベータ、各国大企業・投資家と連携し、のべ2万人以上の参加者が関わる世界規模のDeep Techコミュニティを形成するに至った。

Hello Tomorrowが形成するDeep Techコミュニティ

世界各地から4500チームが参加するコンペティション

 本部をフランス・パリに置き、英国、スイス、トルコ、ハンガリー、シンガポール、中国、日本、インド、パキスタン、ガーナ、ブラジルと各地にローカルハブを設置している。これらローカルハブが各国の大学を中心にDeep Tech発掘を手がけ、グローバルでの展開までをサポートする。


 具体的な活動の柱は、コンペティションの「Global Challenge(グローバルチャレンジ)」、業界のリーダーや関係者が一堂に会する「Global Summit(グローバルサミット)」である。


 グローバルチャレンジは2014年に始まり、2017年には110カ国から4000チーム、2018年は119カ国から4500チームが応募した。ここまで数が集まるのは、それぞれのローカルハブが大学や現地のベンチャーキャピタル(VC)と密接につながっているからである。法人組織でなく、プロジェクトチームで応募できることも特徴の一つだ。ただし開発初期段階であることが前提で、2018年はシリーズBの資金調達を受けている場合は不可となった。


 審査は2段階で行われ、Hello Tomorrowによってまずトップ500が選出される。トップ500に選ばれたチームは、グローバルサミットの開催前日に開かれる、世界中の投資家やVCが集まる「Investor Day」への参加権を得る。そしてトップ70(2017年実績)がグローバルサミットでの最終ピッチに進む。

Hello Tomorrowのおもな活動内容

 2018年は、デジタルヘルス、データ&AI、航空・宇宙、インダストリアル・バイオテックなど全12カテゴリーから募集している。カテゴリーが多岐にわたるのは、「可能性を狭めず、どこからでも入れるようにするため」(渡邉氏)である。最終的には、12カテゴリーの優勝チームの中から1チームをグランドウィナーとして選出。グランドウィナーには10万ユーロ(約1300万円)の賞金が贈られる。これまでのグランドウィナーはスイスの脊椎用インプラント、英国のドローン技術を用いた森林再生、ドイツの空飛ぶタクシー、インドのバナナ繊維を用いた生分解可能な生理用品と、技術もプロダクト/ソリューションもバラエティに富む。


 規模にそぐわない賞金額の少なさに驚いたかもしれない。ただDeepTechとしては、賞金よりも、「こうした場で自分たちを進化させてくれる投資家やアントレプレナーたちと出会うことが財産」(渡邊氏)と考えている。合計で3000人、キーパーソンやエキスパートが一挙に集うグローバルサミットは、そこにいる人たちと交流するだけでも得るものが多い。事実、グローバルサミットで自分たちを理解してくれる経営者と出会い、飛躍的に成長した企業もある。

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