3月半ばにザ・プリンス パークタワー東京で開催された「Sansan Innovation Project 2019」。2日目のキーノートスピーカーとして登壇したMIT Media Labのセザール A. ヒダルゴ(Cesar A. Hidalgo)氏は、データサイエンスに基づいて国家の経済成長などを予測する新たな手法を提示した。「コレクティブラーニング(集積的学習/Collective Learning)」。以下で、講演内容を紹介する。


 知識とは何か。私たちは日常的に、会話や活字(記事、SNSなどを含む)を通して、知識を表現し、それを人に伝え、共有することができる。しかし知識そのものには形がなく、人の頭の中にあるものだ。そもそも社会における知識とは一体何なのだろう?


 ヒダルゴ氏はこの問いに対し、「内生的成長理論」の確立によってノーベル経済学賞を受賞した米ニューヨーク大教授のポール・ローマー氏に言及し、知識の特徴を以下のように列挙した。


  • 競争性がない
  • 自分で実践・経験しなければ分からない「暗黙の知識」と、書籍や話などを通して他者と共有することのできる「明示的な知識」が存在する
  • 知識には冗長性や互換性を持つもの、重複するものがある
  • 知識を把握するためには、人と人、人と活動における関連性が重要になる

「ポール氏が発見した重要なことは「知識には競争性がない」ということでした。つまり、資本や労働力とは異なり、無限にシェアすることができます。例えば、こうして私が講演によって知識を共有しているとき、みなさんは私の使う知識を奪うことなく、自分でも使えるようになります。つまり基本的に、知識はどんどん成長できるものなのです」


 知識の特徴を捉えることは、バスケットボールをすることを考えることだとヒダルゴ氏は続ける。


「例えばバスケットボールをするためには暗黙の知識が必要です。本をいくら読んで明示的な知識を蓄えても、まずプレーしなければできるようにはなりません」


 バスケットボールができる人の知識を足し合わせて、複数の知識にすることもできない。そしてバスケットボールができたところでピアノが弾けるようになるわけではない。また、バスケットボールができる人と、ピアノを弾ける人の知識はどちらかが「知識として多い」と言うこともできない。これらは個別の知識だからだ。


「成長」は知識の関連性と集約型に依存している

 続いてヒダルゴ氏は、いかに知識によって世界を「測る」か、その手法について話を進めた。彼はさまざまなプロジェクトにおいて、ビッグデータ処理によって大量の知識を解析する手法とツールを確立してきた。その中での重要な指標に、知識の関連性を挙げる。


 例えばある国が新規産業によって(経済)活動を行い、経済発展を成し遂げるかを予測したい場合、新規産業と国の持つ知識の関連性が重要な基準になるという。仮に建築機械産業であれば、重工業の知識をたくさん持っている国が“向いている”というわけだ。


 ヒダルゴ氏は、「製品や研究、技術などの適性についても同様の方法で評価できます。製品であればデータは製造との関連性、研究であれば研究分野との関連性、技術であれば特許と関連した技術との関連性を調べます。また、国、都市、業界レベルにおいても同様の方法を適用できます。このように多様性や経済的な発展が、知識の関連性に依存していることを“関連性の原則”と呼んでいます」と話す。


 そのうえで、経済成長し、富んだ国になれるかどうかの重要な指標になるのが、知識の複雑性だと説明する。経済的に発展する国、例えばGDPの高い国は、経済における知識の複雑性が高いのだという。そうした経済の複雑性が高く、知識を集約することによって成り立つ「知識集約型」の経済を持つ国は、より豊かで将来性があると判断できるという。


「知識集約型かどうかという視点で国を見ていくと、これまで常識的に考えられてきたことが覆ります。従来は、資源がある国は豊かであると考えられていましたが、資源があっても知識集約型ではない国は豊かにはなれないことが分かってきています。知識集約型の国というのは、富の分散・配分もより良く行われる傾向があります。これは所得の格差に顕著に現れます。知識集約型ではない国は、より格差が拡大する傾向があるのです」


ヒダルゴ氏らの研究グループほかの協同により、2016年に公開された「DATA USA」。アメリカの産業と各地における、仕事、スキル、教育に関するデータをビジュアライズする。アメリカが直面する社会問題を統計的かつ視覚的に理解することができる。

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