「100年に一度」の大変革期を迎えていると言われる自動車業界。CASE(Connected、Autonomous、Shared、Electric)の実現に向けた熾烈な競争と、カーシェアリングやライドシェア、オンライン配車サービスを含む「MaaS」(Mobility as a Service)への動きが加速している。


 背景には「自動車関連の付加価値がソフトウエアで決まる部分が急速に増えている」ことがある。その中にあって、日本の自動車メーカーは国際的な競争に乗り遅れていないだろうか。


 例えば、コンピュータが人間(ドライバー)の代わりに「認識・判断・操作」を行う自動運転技術。自動運転に必要な、高精度地図の作成には高度なソフトウエア技術が必要であり、その上で位置特定、環境認識、走行状態の把握等を行うのも、カメラ、LiDAR(ライダー)、ミリ波レーダーなどのセンサーから集めた大量のデータを融合するソフトウエア技術が必要となる。


 さらにクラウド上のデータセンターにデータを送り、ビッグデータ処理やディープラーニングを活用し走行用ソフトウエアを開発する。もちろん、それらは高速な通信に載せて収集しシェアする。その通信技術の核になっているのはもはやソフトウエアだ。勿論これらはハードウエアの高度化を前提として成り立つものの、各ソリューションを実現するのはソフトウエアであり、時代は「ソフトウエア主導(駆動型)」になっている。


 自動運転車の開発で圧倒的に先行していると言われるのがウェイモ(Waymo)だ。同社は大量の車両を購入して、各種センサーやコンピュータを装着し、後からソフトウエアで自動運転を完成させる。そして今後は、最終アセンブリをデトロイト近郊で行う計画がある。ミシガン州は、縮小する旧来の自動車産業から優秀な人員を吸収し、新しい自動車産業でも引き続きデトロイトがリードし続けることを期待して、ウェイモを誘致した。これは自動車産業の行く末を暗示している。いくら自動車そのものを開発・製造したところで自動運転車にはならない。「自動車(ハードウエア)を作る(製造する)」という従来の発想を改める必要がある。

今後の自動車産業は中国がけん引?

 世界的な情勢を見ると、自動運転は米国、電気自動車(EV)は中国が先行しているといっていいだろう。ただ、この状況がいつまでも続くとは限らない。10~15年後には、自動運転の分野でも中国が主導権を握る可能性がある。中国政府はこれまで国内需要拡大の枠組みの中で、自動車産業を拡大してきたが、今後は欧・米・日が先行する石油由来の内燃機関(ガソリンなど)車輛ではなく、EVや燃料電池車などの新エネルギー車輛(NEV: New Energy Vehicle)で自動車産業の国際競争力を強化する方針を掲げている。


 中国の2009年には世界最大の自動車の製造販売大国となり、2017年の販売台数は2888万台に達した。それでも自動車の所有率は約3軒に1軒であるものの、このまま製造・販売が拡大する場合、大気汚染や交通渋滞などの更なる悪化が懸念される。そのため、国策としてNEVへのシフトやクルマのシェアリングを推進している。


 また、中国はEVの要であるバッテリーに関して世界生産の約7割の製造能力を持っており、価格コントロール能力を持ち、国内のEV市場の拡大策やEV開発企業の統廃合施策などを踏まえ、今後は国際競争力を持ち得る品質向上が見込まれている。


 研究・開発(R&D)の面でも中国企業の躍進が予想される。米国のシリコンバレーにはAI(人工知能)などの分野で中国出身の研究者が多く集っている。そこで培った知識や経験を持つ人材が中国のスタートアップ企業に戻って活躍し始めており、今後拡大していく可能性がある。


 さらに中国国内では多くの公道テストが実施されている。つまり、自動運転における特殊なエッジケースの実験データを多く収集できる環境にあるわけだ。加えて、今後の莫大な数のクルマの配車最適化や効率化のために、「量子コンピュータ」や「ブロックチェーン」といった先端技術の開発・応用が必然的に拡大・発達していく可能性がある。

国際競争で生き残るために必要なこと

 CASEやMaaSの時代が到来すると、クルマはモビリティ事業者が管理する「移動体」としてのツールになり、サービスはソフトウエアで提供される。一方、個人向けのクルマは嗜好品としての要素が強くなり、その市場は縮小し、単価が高くなると予測されている。その結果、高級車市場で強い企業は生き残れるが、量産型自動車をメインにする企業は早急にCASE、MaaSに対応する必要がある。


 CASEやMaaSのプラットフォームにおいては、国内にとどまらず国際的なデファクトスタンダードを確立できるかどうかが鍵となる。ここで重要なのは、そのプラットフォームは1社ですべてを賄うものではないということだ。CASEやMaaSは、多様な要素が連携し、エコシステムとして形成されるもの。その中で、一つでもデファクトスタンダードに合わない非互換のソフトウエアを自社製品に組み込んだ場合、市場からの撤退を余儀なくされかねない。他社製品と互換性を持つソフトウエアを開発し、自社のソフトウエアが他社にも広く使われるようにすることで初めて、デファクトスタンダード提供者のエコシステムに仲間入りできる。


 このことから、従来と同じく自前主義(文化)にこだわる多くの日本企業は、体力的に厳しくなる。今後は、欧米や中国の企業との連携が重要だろう。欧米市場のみならず、圧倒的な規模を誇る中国市場でエコシステムに入り込むことが、生存戦略の重要なポイントになりそうだ。

2019年3月発表の注目トピックを紹介

 ここからは2019年3月に発表された業界最新動向の中から注目トピックから、世界の動向を概観する。


●廉価化、小型EVの開発競争が活発化
 テスラは、主力電気自動車(EV)「モデル3」に価格が3万5000ドルからの廉価版を追加した。最高経営責任者(CEO)であるイーロン・マスク氏が2016年のモデル3の予約開始段階から発売計画を示していたが、ようやく実現した。また同月には、多目的スポーツ車(SUV)の新型車「モデルY」を発表。価格は3万9000ドルからで2020年秋以降の納車を予定している。


 スイスで2019年3月に開催された「ジュネーブモーターショウ2019」では、小型EVの発表が相次いだ。ホンダが2017年フランクフルトモーターショウで発表した「Honda e プロトタイプ」を市販に向けて進化させ、これをベースとした電気自動車を、2019年後半に生産開始する予定と発表した。また、シトロエンは上限速度(最高時速28マイル)に抑えることで国によっては運転免許証なしでも運転できる、特徴的なデザインの「Citroen AMI ONE」を展示した。


●中国市場の重要性がさらに拡大
 世界最大のEV市場である中国での販路拡大を目指した動きが拡大している。フォルクスワーゲン(VW)と中国国営自動車メーカーである第一汽車が合弁事業を立ち上げた。既存の人気ブランド「Jetta」の中国向け自動車を製造する新会社として独立させる。


●生き残りをかけた合併連衡の始まり
 DaimlerとBMWのモビリティ事業における合弁会社がドイツ政府に認可された。マルチモーダル、EVチャージング、タクシーライドヘイリング、パーキング、カーシェアリングに関する5分野でジョイントベンチャーを作り11億3000万ドルを投入すると発表している。Daimlerのディーター・ツェッチェCEOによると「2社が激しく競争し合っていた時代は変わった。いまや、自動車の所有に関心がなくオンデマンドのモビリティに関心があるユーザーが増えつつある。だから、別々に動くよりも連携した方が強くなり得る分野だと結論付けた」という。


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