※ 上記写真はAppleティム・クックCEOのWWDC 2018での基調講演の様子。個人情報保護や適度なテクノロジー利用を訴える一方で、自身は「スマホを使い過ぎている」とも。

 Appleは開発者会議「WWDC 2018」で新ソフトウエアを披露するプレゼンテーションを通じ、明言こそしなかったがこんなメッセージを私たちに送っていた。


「ユーザーの時間とデータから収益を上げるな」


 新機能によってユーザーの行動がどう変わるのか、そしてティム・クックCEOら同社経営陣のこれまでの発言を踏まえると、Appleからの強い警告が浮かび上がってくる。

GDPR対応でも余裕のApple

 2018年5月末までに、様々なウェブサービスやアプリから大量のメールが送られてきた人も多いだろう。


 その内容は「プライバシーポリシー変更の通知」と「メールマガジンの継続購読の意思確認」に分類できるが、これらは欧州における「一般データ保護規則」(GDPR)に適合させるための措置だ。


 AppleはユーザーにApple IDを作成させ、iTunes StoreからApp Store、iMessageに至るまで、IDと紐付けて様々なサービスを提供してきた。GDPRの施行を受けて、同社は欧州のユーザーを対象に、現在まで取得しているデータをダウンロードできる仕組みを用意。さらにこれを全世界に拡大させる計画だ。


 Appleが持っている私たちのデータをダウンロードしてみると、Appleで購入した製品やアクセサリの記録、iTunesにアップロードした自分が持っている楽曲の記録、FaceTimeやiMessageの通信記録が含まれていた。同時に、1対1の暗号化されたメッセージや通話の中身までは、Appleは保持していないこともわかった。


 これまで筆者は、Appleは伝統的にコンテンツの"中身”に興味がないことを繰り返し指摘してきた。というのも、同社はユーザーデータをビジネス価値に変えるモデルを持っていないからだ。


 Appleは、ユーザーデータはできる限りユーザーのデバイスから外に出さないという方針を採っている。そのため、様々なデータに暗号化を施すとともに、クラウドではなくデバイス内で機械学習できるようにするため、チップセットやソフトウエアの開発を重ねてきた。GDPRなどのプライバシー保護強化の機運は、Appleにとってはビジネス面でのインパクトは小さいといえよう。

「同じシリコンバレーにいながら、まったく違う」

 こうした方針は、デジタル広告をビジネスモデルの核としているGoogleやFacebookはなかなか採用できない。


 特にFacebookはCambridge Analyticaが不正に取得・流用したユーザーデータの問題によって、マーク・ザッカーバーグCEOが米国や欧州の議会で証言する事態にまで追い詰められた(もっとも、米国では議員のテクノロジー音痴と不勉強にかなり助けられたようではある)。


 そんなFacebookは、Appleから常に批判を受ける存在だ。3月にシカゴで開催されたAppleの教育関連イベントでも、基調講演の中で、そしてその後に収録されたテレビインタビューで、ティム・クックCEOは、「Appleはユーザーのデータでビジネスをしていない」とアピールした。個人情報の法規制に踏み込むべきだ、とも語っている。


 筆者はシカゴでAppleのある役員にこの問題への見解を尋ねた。印象的だったのは、役員が語気を強めて怒りを露わにしたことだった。同社は悪意のあるハッカーや政府、第三者によってユーザーの生活が脅かされないようにしていること、Facebookとは同じシリコンバレーにいながら全く異なる事業を運営していること、そしてユーザー中心の製品作りに情熱を傾けていることを強調していた。

基調講演の冒頭で「顧客はすべての物事の中心にいる」と強調

 確かにビジネスモデルは全く違う。Appleは製品を販売することで世界一の時価総額を実現した。2億台以上のスマートフォンを、世界一高い価格で販売する仕組みとブランドを築き上げたことは、奇跡的とさえ言える。


 一方のGoogleやFacebookは、20億もの人々が毎日利用するサービスを構築し、そこに集まる人々に広告を見せることで収益を上げている。一度定着すればほぼ永続的に収益を上げられるモデルではあるが、広告の精度を高めるためにユーザーの行動データを活用、ターゲティングの技術を日々磨いている。


 筆者個人としては、すべての広告が害悪だとは思えない。知らなかったサービスや商品を知るきっかけにもなるからだ。特にInstagramでは、きちんと制作された美しい写真として広告が流れてくるため、コンテンツとしての楽しみすらある。


 また、広告テクノロジーがユーザーデータを活用する点についても、それによって要らない広告を排除したり、一度閲覧・購入した商品を再表示しないようにもしてくれるため、不快な広告はアルゴリズムへのデータ提供によって解決できる可能性もあるといえよう。