2019年3月29日、Lyftが米ナスダック(NASDAQ)証券取引所で、5月10日にはウーバー・テクノロジーズ(Uber)がニューヨーク証券取引所(NYSE)で新規株式公開(IPO)した。


 Uberの新規株式公開(IPO)前、2018年末には1200億ドル(約13兆円)を上回ると見込まれていたものの、株式公開以前に評価は下がりはじめ、1株当たり低めの44ドルから50ドルの間で新規公開株公開の予定となった。実際は45ドルの売り出し価格となり、その時点で時価総額は約820億ドル(約9兆円)だが、それ以降株価は下回っている。Lyftも、公開直後は売り出し価格を2割以上上回り、初日の最高値で計算した時価総額は約260億ドル(約3兆円)となったものの、現時点では売り出し価格を3割下回っている。それでも、国際視点で見て、現在公開される最も価値のある企業群の仲間であることに違いはない。


 新時代の企業価値と市場や技術開発投資の在り方は、既存の企業財務の評価指標とは根本的に異なる。この発想の違いの背景には、インターネット系企業とモノづくり企業との、「ビジネスモデルの作り方」の違いがあるのではないか。

ビジネスモデルの規模感とスピード感が全く違う

 そもそも自動車メーカーをはじめ、ものづくりを基盤にした企業とWeb企業とでは事業構造が全く異なる。


 例えば、数千億円の年間売り上げを立てようとすると、自動車メーカーは、「数百万円のクルマを月1万台」売るという金額と台数のスケール感で事業を行う。一方、Web系サービスは、特殊な例を除いて100万人程度のユーザー規模を最小単位とし、「月額1000円程度のサブスクリプション」や「1人当たり少額の広告費」を、「1000万人のユニークユーザーを確保して、年商1000億円」という規模感で展開する。


 ここで重要なのは、両者のコスト構造や商品・サービス特性からくる利益率が大きく異なる点である。前者は固定費のみならず変動費が高く、クルマを1台追加で生産販売するコストの増分は大きい。一方、後者はユーザー1人を加えるコストは非常に低い。限界費用に明確な違いがあるわけだ。


 また前者の場合、商品がいくら良くても、1台1台の販売に大変な労力を必要とするし、流通コストも高い。さらに販売開始後「新車」として販売される3年間、基本的に時間の経過とともに人気は単調に落ちる。


 ところが後者の場合、市場投入開始後もサービスを日々改善し続け、サービスが市場に受け入れられれば、ネットワーク外部性の効用もあって、時間の経過とともに幾何級数的にユーザー数が拡大する。固定費も低く、販売開始後はユーザー規模の拡大に伴って莫大な利益を享受し得る。


 拡大したユーザー数をベースに新たなサービスを追加し、あるいは第三者のサービスをつなげてさらに利便性を向上し、ユーザー規模を拡大するという具合に、まさにプラットフォーム型のビジネスが形成される。ユーザーベースが大きければ大きいほど、ビッグデータ処理やディープラーニング活用の効果が上がる。ユーザーニーズを正確に分析すれば、問題点の改善や新しい商品やサービスの企画が可能となり、サービス全体の改善、競争力の強化につながる。その競争力強化のために、本来発生し得る利益をユーザー獲得にまわす。あるレベルからは、無料でもユーザーを増やす方が競争力の拡大につながる。それで赤字になったとしても、将来を見据えた企業価値を最大化し、キャピタルゲインを最大化すれば、資本市場からの評価は拡大する。


 一般的に技術力を基盤とする企業は、売上高の8%前後、あるいはそれ以上を技術開発投資に充てると言われている。しかし、特に指数関数的に成長する傾向を持つデジタル系技術に関しては、年度で切る既存の損益計算書や貸借対照表の中で整合化される経常的な利益からだけでは、開発投資を賄えなくなるかもしれない。厳しくなる燃費規制に対応するためのEV開発や、増え続ける自動運転の開発に対して、スタートアップ企業に投資し、引き換えに技術利用する、といったケースが出てきているからだ。メーカーは研究・開発投資に対するスタンスを大幅に見直すべきときにきているといっていいだろう。


 ちなみに、Uberの筆頭株主はソフトバンクであり、Lyftの筆頭株主は楽天である。そのIPO前後のキャピタルゲインをどう使うかが、今後の日本の技術力拡大にヒントが隠されているのではないだろうか。

自動車産業は、ソフトウエア主導の産業へ

 ものづくり企業が自動運転に本格的に参入して成功するには、ソフトウエア開発に対する認識を変えることが必要だ。


多くの日本企業の開発はこれまで「ハードウエア主導型」であり、ソフトウエア開発を従属的な位置付けで捉える風潮が少なからずあった。ところが現在の自動運転開発は、ハードウエア開発とソフトウエア開発を切り分け、最終的にはソフトウエアで完成させる発想になっている。


 もちろん、クルマ自体の技術やセンサーや、車載コンピュータも常に高度化し続けるが、ハードウエアの開発はある段階でフィックス(固定化)し、シミュレーションと走り込みと並行し、最終的にはソフトウエア開発で完成に持ち込む発想が必要だ。米国で自動運転の開発を先導するWaymoやGMが走らせている車は、ハードウエア(車)的にはFMVSSを通った、ある意味公道走行が可能な「完成品」である。それらを数百台から数千台“生産”し、その後ソフトウエアの開発により自動運転車として完成させる。それらの開発に利用されるクルマは、2年程度の走行で各車10万マイル程度走って世代交代する。その2年間はハードウエア的に据え置き、ソフトウエアをアップデートしながら開発を進める。ハードもソフトも完全に仕上がらないと「生産に落とさない」のではなく、ソフトウエア会社の発想が必要だ。


 今後、自動車は個人向けに販売される「オーナーカー(マイカー)」の市場は縮小し、代わりに移動をモビリティサービスとして提供するモビリティ事業者が所有する「サービスカー」の市場が拡大するものと考えられている。当然、それに伴って、ハードウエア的には自動車にはそれぞれのサービス形態に適したスペックや耐久性、メンテナンス性が求められるようになる。


 重要なのはサービスの差別化。このため、ユーザーと直接対面するサービス提供者がサービス企画やさらには商品スペックを決め、ソフトウエアで実現する状況になり得る。それが重要な差別化ポイントとなれば、ハードウエアだけを製造するメーカーは、「どの車にも共通する、規格化された台車部分だけを提供する存在」になりかねない。


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