本誌『DIGITALIST』は9月26日、初の主催イベント「Meets DIGITALIST~AIがもたらす未来~」を開催。3人の識者を招き、ビジネスからライフスタイルまで至るところに適用され始めているAI(人工知能)が私たちにもたらす未来について討議した。


 パネルディスカッションに登壇した識者は、

  • 楽天株式会社 執行役員 兼 楽天技術研究所 代表 森正弥氏
  • リテールAI研究会 代表理事 田中雄策氏
  • 駒澤大学 経済学部 准教授 井上智洋氏

の3人。ファシリテーターは本誌『DIGITALIST』編集長の河井保博(日経BP総研 クリーンテック ラボ所長)が務めた。ニュースアプリ「SmartNews」で知られるスマートニュースのオフィスに設けられたイベントスペースには、約70人の読者が来場している。


 AIの活用シーンは広がっているように見えるが、実際のところはどうなのだろうか。パネルディスカッションの前半をお伝えする本稿では、日本のAI活用が遅れているという危機感、AIによって変わる産業構造に関する討議の模様をお伝えする。

「日本は大丈夫かな?」という危機感

『DIGITALIST』編集長 河井保博

河井 『DIGITALIST』というサイトを運営するにあたって、作り手の僕らが持っている思いが2つあります。1つが「期待感」で、デジタル化によって今よりももっと便利に、もっと暮らしやすい世の中になっていくであろうという期待感ですね。その時に役立つWebマガジンにしたいという思いがあります。


 だけど一方で、ちょっとした「危機感」もあります。危機感のほうは、記事を作る上であまり強く押し出さないように心がけているのですが……というのも、20代〜30代の若いスタッフと話をしていると、危機感を煽るような記事って説教くさいし、年寄りくさく感じるというんですね(笑)。ミレニアル世代はデジタルテクノロジーを当たり前のように使いこなすわけですから、「新しい技術を使わないと損をするぞ!」と危機感を煽るような記事を出すと、しらけてしまうようです。


 ただ、それでも危機感を覚えてしまうところがあります。例えばAIの普及度や浸透度などを海外と比べた時、アメリカと比べた場合は当然ですが、中国と比べた場合でさえ、「日本は大丈夫かな?」と思ってしまう。


 日経BPの雑誌やWebサイトに掲載した「AIに関連する記事」を、どの業種の人たちが、どの程度読んでいるかをトラッキングしたデータがあります。これを見ると、介護、福祉、流通、建築関係の仕事をしている方々が、すごくたくさん記事を読んでくれている。一方で、電子、機械などAIの技術の開発者に近い方々は、こういった記事を読むことが減っているようなんです。


 この意味するところは、「AIというのテクノロジーそれ自体がトピックになる」というフェーズから、「AIを使う」というフェーズへ移行してきているということではないか、と考えています。


 田中さんはAIを活用する側のお立場です。いかがでしょうか、危機感を覚えていますか?

リテールAI研究会 代表理事 田中雄策氏

田中 リテールAI研究会の代表理事をしている田中です。リテールAI研究会というのは、リアル小売店舗でのAI活用方法を調査・研究する組織です。


 2016年にAmazon.comが無人店舗「Amazon Go」を発表したことで、小売業界でAIへの関心が急速に高まりました。そこで、AIなどの最新テクノロジーに関する情報を共有する場を作ろうということで組織したのがリテールAI研究会です。


 河井さんのご質問にあった「危機感」でいうと、AIには学習データが必要なので、早く導入してトライアンドエラーを積み重ねないと、先行者利益は得られないと考えています。「簡単に」というと語弊があるのですが、AI関連テクノロジーにはオープンソースのものが存在していますから、導入にそれほどコストがかかるものではありません。

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