本誌『DIGITALIST』が9月26日に開催した初の主催イベント「Meets DIGITALIST~AIがもたらす未来~」。その模様をお伝えした前編では、日本のAI活用が遅れていることへの危機感、ディープラーニングと画像認識の技術について、3人の識者が意見を交わした。


 後編となる本稿のテーマは、「私たちは今後、AIにどう向き合っていくべきか」だ。パネルディスカッションの終盤には来場者から「AIの活用が広がっていく時代、人間にしかできない仕事は何か?」という質問も飛び出した。その答えも合わせて紹介したい。

登壇者

  • 楽天株式会社 執行役員 兼 楽天技術研究所 代表 森正弥氏
  • リテールAI研究会 代表理事 田中雄策氏
  • 駒澤大学 経済学部 准教授 井上智洋氏
  • ファシリテーター 『DIGITALIST』編集長 河井保博(日経BP総研 クリーンテック ラボ所長)

AIが普及していく時代の働き方

井上 中国や東南アジアの国々と比べると、日本は(AI活用の点で)少しアグレッシブさが足りないと感じています。原因の一つは、日本は既に豊かであり、かつ便利な国だから。電子決算の普及が進まないのも、日本国内で流通している現金に偽札が少ないからという事情もあるでしょう。他方で、豊かである半面、20年以上もデフレによる不況で苦しめられているので、デフレマインドが染み付いてしまっています。そのため、中学生のなりたい職業ランキングで「公務員」がかなりの上位にランクインしていますよね。若者が保守的になり、安定を求めている中で、新しい技術を導入しよう、投資しようという方向へはなかなかいきません。


 ただ、最近は駒澤大学の教え子の中にも、「ゆくゆくは起業したい」と考える生徒が増えてきました。景気が上向いてきているせいなのか、あるいはAIやシェアリングエコノミー、ブロックチェーンといった世の中を激変させるテクノロジーやビジネスモデルが続々と登場してきているせいなのかは、わかりません。ただ、漫然と大企業に勤めても面白くないなということに若者は気付き始めているようです。そういう若者たちに、お金を持っている大人がいかにチャンスを与えていくか。それが重要だと思っています。


駒澤大学 経済学部 准教授 井上智洋氏

 中国のハイテク企業に勤める若者の一部は、「996」とよばれる過酷なスケジュールで働いています。「996」とは、午前9時から午後9時の勤務を週6日続けるという働き方です。これが、働き方の一つのパッケージのようになっているという背景があるのですね。24時間365日仕事をして波に乗って行こう!という勢いが中国の企業にはあり、日本でいわれているようなワークライフバランスなんて考え方は、彼らには「ぬるいな」と思われてしまうかもしれません(笑)


 また、今の中国の若者たちの間では、大企業に勤めるよりも、スタートアップのコミュニティを転職しながらぐるぐる回った方が安泰だという価値観があります。安定を求めてスタートアップに行くという、逆の流れがあるんですよ。


楽天株式会社 執行役員 兼 楽天技術研究所 代表 森正弥氏

田中 中国は本当にすごいですよね。キャッシュレスもとても進んでいます。個人の信用度がどんどんデータとしてたまっていって、それがないと買い物すらできないような状況になってきている。街も綺麗だし、中国はとんでもない国に成長してきています。


河井 しかし日本も、追いつくのは難しいにしても、それほど引き離されないレベルで後を追っていきたいですよね。今、日本には何が必要なんでしょうか。


井上 日本企業は経営者の年齢が高く、IT化に及び腰であるというのが問題の一つとしてあると考えています。ですから、若者でAIや新しいテクノロジーに関心がある人がいたら、その若者に思い切って権限と予算を与えてしまってもいいのではないでしょうか。「IT戦略本部」などの部署を立ち上げても、なんの権限も予算もなく、ほとんど形骸化している、などという話をたまに聞きます。若い世代には、IT化やAIの活用に企業が及び腰であることに対して、不満を持っている人が少なくありません。また、景気が悪くなってしまうとアグレッシブさはより失われてしまうと思うので、この景気の良さを持続させる必要もありますね。


 スタートアップ企業は、スタートアップで経験を積んだ人材しか採用したがらない傾向があります。ただ、大企業もとても優秀な人材を採用していて、ジョブローテーションを通じて様々な経験を積ませて人材を生かすという知識とノウハウはあります。現在の大企業はベンチャーキャピタル化していますから、そこからスタートアップを生み出すような流れができればいいのかもしれません。優秀な人材を自社で囲わず、市場に放っていくことができればいいのですが。


田中 AIの基礎知識を総合的に持っているような人材は、なかなかいません。人材を育てていけるような仕組みは、やはり必要だと私も強く思います。


リテールAI研究会 代表理事 田中雄策氏

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