テクノロジーの進歩により、人間の暮らしは変化を続けてきた。住宅業界にはスマートホームという概念が生まれ、IoT(モノのインターネット)やAI(人工知能)の技術によって家電製品を自由にコントロールできるようになり始めている。


 同時に、日本の住まいは大家族で空間を共有する時代から、プライバシーや個を優先する時代へと変わり、LDKという居住空間が定着した。しかし、核家族化や単身化が進んで、他者とのつながりが希薄になり、退屈や孤独を抱える人が増えている。


 移り変わる社会のなかで、これから目指すべき暮らしのあり方とはどんなものなのか。そして暮らしにおけるテクノロジーはどう進化していくべきなのか。


 予防医学を専門に研究を続ける石川善樹氏に、同氏が啓蒙する「ウェルビーイング(身体的・精神的・社会的に良好な状態)」の観点から、将来の暮らし方やスマートホームがどうなるのかを聞いた。

テクノロジーの進歩とLDKがもたらした“暇”

「私は普段、予防医学研究の一環として、潜水艦や宇宙船などの極小空間におけるストレスをいかに減らせるかを検証しています。人間を動物として捉え、生理学的観点で心地のよい空間とは何か、住まいやオフィスにおいても充実して過ごせる空間とはどのようなものかを考えています」(以下、石川氏)


 こうした石川氏の研究は、身体的、精神的、社会的に健康で豊かさを目指す“ウェルビーイング”の考えを追求するものだ。これからの住まいには快適さだけでなく、様々な豊かさが求められている。石川氏は未来の暮らしに何が必要と考えているのか。


「戦前まで、日本人は料理、洗濯、掃除に追われる生活を送っていました。しかし、1950年代に洗濯機、掃除機、テレビという三種の神器が登場し、家事の時間が大幅に削減されます。快適な暮らしを手に入れた日本人は、生活環境の改善によって寿命を伸ばし、暇な時間を持つようになるのです」


 一方、地域コミュニティに依存し、大家族のなかで暮らしてきた日本人はプライベートな空間に憧れ、住まいにLDKを取り入れていく。皆が家の中で個室を所有し、自分だけの時間を持つようになったのだ。そして、お風呂や食事、買い物もすべて家の中で完結できるようになった。


 テクノロジーの進化によって家事や生活は簡便化され、プライベートも確立された現代の暮らしは、一見すると快適でストレスのない生活に思えるが、実は新たな問題を孕んでいる。


「人と接しない生活は、孤独を生みます。予防医学の世界では、孤独はタバコより健康に悪い、孤独を感じる人は早死にする、と言ったりします。だからウェルビーイングの観点から見て、孤独は非常に良くない状態です。そして、現代人の多くが暇な時間をどう過ごしたらいいか分からずに持て余しています。本当は人と交流したり、学んだり、充実した時間を過ごしたいのに、結局目の前にあるテレビやスマホ、ゲームで退屈と孤独を感じながらただ時間を潰しているのです」


 世界を見渡すと、ヨーロッパには家の中心にベッドがある国があり、北欧では暖炉が中心にあって家族で火を囲んで団らんするという。一方、日本の住まいの中心には昔からテレビがあり、今もその立ち位置は健在である。


 既に核家族化や単身化が進みつつあるなかで、特に都市における暮らしは、近隣はおろか家族との関係性をも希薄にし、今後人々はますます暇と孤独と退屈に苛まれるようになっていく。さらに「人生100年時代」で生きる時間が長くなれば、深刻さは増していくばかりだ。

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