筋電義手やアバターロボットの技術開発を進めるMELTIN。その視線の先にあるのは、それらの技術を使って人の身体をアップデートすることが、ごく普通のこととなったサイボーグ社会だ。


 インタビューの前半では、サイボーグ社会につながっていく技術要素と、そこに向けた現時点でのMELTINの取り組みについて聞いた。後編では、この先の技術の方向性や、サイボーグ社会についてのビジョン・考えについて聞く。

「身体の模倣」を超えて「身体の拡張」を目指す

先程、筋電義手で日常生活の9割ぐらいの動作をカバーできるということでしたが、それはどこまで高めていくつもりですか?100%に近づくほど、技術の難易度が上がり、同時にそのための開発コストも増えていくように思うのですが。


粕谷:まずは日常生活を100%カバーすることが先ですが、私たちが目指しているのはそれ以上です。私たちがサイボーグによって実現したいのは「身体の模倣や補完」を超えた「身体の拡張」だからです。


 例えば「3本めの腕」です。人間の身体は、考え方によっては、腕が2本しかない、脚が2本しかないといった制約と捉えることができます。その制約を越えて身体を拡張していくと考えると、3本めの腕があっても何もおかしくありません。


 3本めの腕も単なる一例です。6本めの指があってもいいでしょうし、羽根や尻尾、ヒレが人間の身体にあってもいい。それを意図的に動かすにはいろいろな方法があり得ます。例えば、3本めの腕の実験では、表情筋の変化を機械が読み取って操作するように実装しました。こういったやり方の工夫で、羽でも尻尾でも、自在に動かすことは原理的には可能です。


3本めの手を動かすことの想像がつきません。もともと自分の身体ではないものを、どうやって動かせるようになるのでしょう?


粕谷:もちろん訓練が必要ですが、基本的には、赤ちゃんが次第に自分の身体を自在に操れるようになるのと同じです。最初は予期せぬ動きをすることもありますが、使っているうちに脳へのフィードバックがかかって動きがまとまってきます。


100%以上の「身体の拡張」を目指すには、どのようなアプローチがあり得るのでしょう?筋電位や表情筋の変化のパターンを果てしなく増やしていくということですか?


粕谷:その領域を目指すには、脳と機械(マシン)を直接つなぐブレインマシンインタフェース(BMI)の技術が不可欠です。BMIを使うポイントは3つあります。脳波そのものを解析してマシンを動かすというのが一つ。もう一つは、「拡張した身体」からのフィードバックを与えて、脳をアップデートさせていくことです。脳はフィードバックを受けるとどんどん変化していきますから。それによって人類を「身体という制約」から解放し、人間の枠組みを超えていくイメージです。

テレパシーを可能にする電脳コミュニケーション

BMIを使うポイントの3つめは、どのようなことでしょうか?


粕谷:それが、私たちが究極の目標として掲げているコミュニケーションの革新です。例えば昨日食べた食事の味わいを言葉にして伝えようとしても、味わいそのものを伝えることは困難です。仮に味わいを正確に言語化できたとしても、話者が思ったことを言葉に変換して発語し、それが空気の振動として聞き手に届き、聞き手の脳内で言葉からイメージに変換するまでには時間がかかります。


 BMIを使って脳内の思考や感情を瞬時に伝えられるようになれば、今まで1時間かかっていたミーティングの内容が、一瞬で終わるようになるかもしれません。そうなると、個々人の創造性がコミュニケーションの加速によって増幅され、人類全体の進化のスピードが上がっていきます。


BMIを使ったコミュニケーションで、思考や感情を送る/送らないという制御はできるのでしょうか?


粕谷:当然できます。口を使って発語するときに自分自身でコントロールできるのと同じで、BMIでも、脳内の思考や感情を伝えるかどうかの制御は可能です。さらに言えば、そうした思考や感情を言葉で伝えるのか、身振り手振りで伝えるのか、脳波の伝達で伝えるのかは、伝え手が自分の意思で選択できます。


身体拡張だけでなく、コミュニケーションの拡張もサイボーグ技術だと。


粕谷:そうです。アバターロボットも医療機器も、そこに行くためのステップです。私たちはサイボーグ技術によって人類を3つの制約から解放し、人類が自身の創造性を無限に発揮できる未来の実現を目指しています。


 3つの制約というのは、「身体的制約」「空間的制約」、そして「コミュニケーションの制約」です。人工身体によって人類を身体の物理的な制約から解放し、アバターロボットの遠隔操作によって空間の制約を超える。そしてBMIによってコミュニケーションの制約を過去のものにする。そうなったとき、人類は今の私たちがイメージする人類とは異なる生命体になるかもしれません。いわば、ホモ・サピエンスを超えた新たな種です。私たちMELTINはそういうビジョンを根幹に事業を展開しています。


壮大なビジョンですね。


田崎:世界的な潮流を見れば、ビジョンドリブンな事業展開がスタンダードになりつつあります。典型的な例がイーロン・マスクでしょう。「人類のために」という壮大なビジョンを掲げ、宇宙開発事業のスペースX社や電気自動車のテスラモーターズ社を起業・経営しています。


 彼は、人類に新たな技術をインストールして、本気で世界を良くしようと思っている。人類全体を視野に入れて、社会のためになることを考えているわけですから、必然的にマーケットは大きくなります。私たちも、サイボーグ技術を人類にインストールして、人類の進化に貢献したいというビジョンに基づいています。

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将来的にはサイボーグ技術で臓器の置き換えも可能に?

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