2019年は「人類初」の宇宙探査で幕を開けた。米航空宇宙局(NASA)の探査機が人類史上最も遠い天体ウルィマ・トゥーレを探査(雪だるまのような天体の形も驚きだった)、そして1月3日には、中国の探査機「嫦娥4号」が人類で初めて月の裏側を探査し、世界を驚かせた。


 だが、もっと身近でわくわくする話題はこれから始まる。「2019年は有人宇宙輸送機が次々デビューする年になる」と宇宙ビジネスコンサルタントの大貫美鈴氏は言う。私たち庶民に手が届く「宇宙旅行」が複数の企業でいよいよ始まるのだと。


 さらに「有人宇宙開発は今、月に向かおうとしています。別の天体に降り立ち、社会が生まれる。『100万人が宇宙で暮らし働く世界を目指す』とアマゾン・ドット・コム創業者ジェフ・ベゾスが語った未来に向けて、具体的に動き出す年になる」と大貫氏は興奮を隠さない。


 大貫氏は清水建設宇宙開発室で「宇宙ホテル構想」をはじめとした提案やプロジェクトの企画・調査、宇宙専門の大学院大学・国際宇宙大学の事務局などを担当。当時の学生たちが今、世界の宇宙産業界で活躍しているという。貴重な人脈や宇宙航空研究開発機構(JAXA)勤務などの経験を生かし、宇宙ビジネスコンサルタントとして世界を飛び回る。大貫氏に2019年の宇宙ビジネスの注目点を聞いた。前編は「有人宇宙飛行」について。

ブルー・オリジン、宇宙旅行をいよいよ販売⁉

2019年の宇宙ビジネスの注目点はなんでしょうか?

大貫 有人宇宙飛行、つまり人が宇宙に行く点で新たなことが起こる年です。サブオービタル飛行(地球の周りを周回せず、宇宙まで上昇し降りてくる飛行)では、ジェフ・ベゾスの宇宙企業ブルー・オリジンが今年、民間宇宙旅行の募集を始めるでしょう。


いよいよですか! 宇宙旅行はヴァージンギャラクティックが先行していますが、ライバルのブルー・オリジンがいつ宇宙旅行のチケットを販売するか注目していました。

大貫 ブルー・オリジンの宇宙旅行募集は、この1月か2月初めに発表されると言われていましたが、もう少し先になるかもしれません。今年始まる有人の試験飛行が繰り返し行われてからになると思います。


ブルー・オリジンの宇宙旅行機はどんな機体で、どんな段階にありますか?

大貫 同社の宇宙船ニュー・シェパードは6人乗りですが、パイロットは搭乗しません。遠隔操作で無人で自律制御する、IT的な設計思想で作られているのが特徴です。垂直に上昇し、人が乗る有人カプセルを切り離します。有人カプセルは約4分間の無重力状態の後、パラシュートを開いて着陸します。1号機は2015年から5回、高度100㎞を超える宇宙飛行をし、5回目は緊急脱出試験にも成功しました。2017年12月からは人が乗ることを前提にした2号機で試験飛行が始まっています。宇宙服を着せたマネキン「スカイウォーカー」を乗せて。

ブルー・オリジンのニュー・シェパードは垂直に打ち上げられる。先端の有人カプセルは上空で切り離されパラシュートで着陸する。2019年1月23日(現地時間)にはNASAの実験機器を搭載し、飛行に成功した(提供:Blue Origin)
宇宙旅行者が着る宇宙服を着せているのですか?

大貫 色々なセンサーをつけて、データの収集をしています。さらに、2号機からは海外を含む顧客からのペイロード(荷物)を搭載し、実験を行う商業運航も行っているんです。

パラシュートで着陸したニュー・シェパードの有人カプセル(提供:Blue Origin)
ということは、人は乗っていないけれど実力的にはかなりの水準に達していると?

大貫 サブオービタル機で再使用を繰り返しているのは、世界初の快挙です。2019年はいよいよ有人飛行を行うでしょう。お客さんを乗せる前に、社員が乗ると言われています。


ヴァージングループのリチャード・ブランソンは宇宙船のテストフライトに乗ると宣言していますが、ジェフ・ベゾスは乗るでしょうか?

大貫 今のところ表明していません。ジェフ・ベゾスは「100万人が宇宙に住んで働く」ビジョンを実現するために、まず一般の人に宇宙に行ってもらいすそ野を広げる、さらに大型ロケットや月面輸送機など様々な計画を実行に移しています。ジェフ・ベゾスは宇宙開発や探査という言葉を使わず「宇宙経済開発」と言います。宇宙は経済活動の場で、それを実現するために低コストの再使用型ロケットを開発しているのです。


宇宙経済活動の第一歩が、サブオービタル機による一般人の宇宙旅行であると。

大貫 彼は有人宇宙飛行がゲームチェンジャーになると確信しています。おそらく数回のテスト飛行のあと、宇宙旅行募集を発表するのではないでしょうか。旅行費用は1人2000万~3000万円ぐらいになると推測されています。

ヴァージンの宇宙旅行者第1号は今年宇宙に行けるか

一方、ヴァージンギャラクティックは昨年、約80kmの飛行を達成しました。どんな特徴がありますか?

大貫 飛行機のような母船に6人の乗客とパイロット2人を乗せた宇宙船をつり下げて離陸し、高度約15kmで宇宙船を切り離します。IT的考え方のソフトウエアで制御するニュー・シェパードに対して、ヴァージンギャラクティックのスペースシップ2は機体開発の天才と言われるバート・ルタンが設計し、操縦はパイロットがマニュアルで行うフライトコントロールシステムです。設計思想が全く異なるのです。

ヴァージンギャラクティックの機体は母船の下に宇宙船が吊り下げられ、上空で切り離される。写真は2016年9月のテスト飛行時のもの。2014年の事故から約2年ぶりにテスト飛行を再開した(提供:Virgin Galactic)
パイロットの腕にかかっているというわけですね。

大貫 宇宙船の形状は翼のある飛行機型で、飛行機のように水平に離着陸します。垂直型のニュー・シェパードは十数分、水平空中発射型のスペースシップ2は約2時間と離陸から帰還までの時間も違います。どちらがいいということではなく、違うアプロ―チで地球周回飛行より二けた安い値段で宇宙旅行を実現する、サブオービタルという全く新しいプラットフォームが生まれるわけです。宇宙がより私たちに開かれた身近なものになるでしょう。

2018年12月、ヴァージンギャラクティックの宇宙船は高度80㎞を超えた(提供:Virgin Galactic)
ヴァージンギャラクティックの宇宙旅行には約700人が申し込んでいます。今年、旅行者は飛べますか?

大貫 お客さんを今年乗せられるか乗せられないか、というところでしょうね。今はまだ試験飛行段階でFAA/AST(米連邦航空局商業宇宙輸送部門)が、飛行1回ごとに許可を出し、試験後に評価をするなど沢山のプロセスがあります。

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