世界中からスタートアップ企業を募って短期間で支援・育成するプログラム「500 KOBE ACCELERATOR」や、スタートアップ企業と行政職員が協働する地域課題解決プロジェクト「Urban Innovation KOBE」など、神戸市は極めてユニークな活動を推進している。さらに、市が保有するデータを公開して利用促進する、ITの専門家を市の要職に就かせるなど外部に門戸を開く活動に積極的に取り組む。一般的には内向き、保守的になりがちな自治体の取り組みとしては画期的だ。


 その原動力は何か。同市の久元喜造市長によれば、一連の活動の原点は2015年6月の米国の西海岸への視察に遡るという。


「サンフランシスコ市オフィスへの訪問で印象的だったのは、とにかくサンフランシスコ市の職員とスタートアップの距離が近く、実に生き生きと議論していたことでした。ワクワク感があったのです。これはぜひ神戸でもやってみたい。このワクワク感を神戸にも取り込みたいと思ったわけです」


 このときの訪問に対応したのが、シリコンバレーを拠点に置くシードベンチャーキャピタル(初期の事業に出資する企業)の「500 Startups」だった。同社は世界各国でスタートアップに投資している(2019年1月時点で、累計60カ国、1900社以上のシード投資を実施)が、当時は日本での活動はなかった。久元氏は「彼らが日本で活動するなら、神戸で展開したい」と思ったのだという。視察後すぐに市の担当者が500 Startupsとやり取りを進め、500 Startupsによるスタートアップ支援プログラム「500 KOBE ACCELERATOR」が神戸で実現することになった。

神戸に閉じた取り組みにしない決意

 2016年にスタートした500 KOBE ACCELERATORは、2018年に3度めのプログラムを終えた。久元氏は、同プログラムの現状を「軌道に乗ったところ」と表現する。


「スタートアップはすべてがうまくいくわけではありません。そうした厳しい環境の中で、1年め、2年めに参加したスタートアップから成功している企業が出始めています」


 注目すべきは、2018年の応募の半数以上が海外のスタートアップだったことだ。


「神戸がスタートアップの都市だということがグローバル社会で認知されてきていることを示す数字で、とてもうれしいことでした」


 グローバル社会における「スタートアップを支援する都市・神戸」の認知は久元氏が重視していること。「現代社会は都市の時代です。特にアジアパシフィックでは大都市が競争しています。何を巡る競争かというと、それは優れた人材です。優れた人材が集まる都市に、さらに人材が集まってくるわけです。人材を地域に閉じ込めようとする都市に、優れた人材が来てくれるでしょうか」


 500 KOBE ACCELERATORに対するグローバルの認知度が上がる一方で、スタートアップ企業を支援することの、市民や市職員にとってのメリットをどう考えているのだろう。スタートアップ支援活動は市民サービスへの直接的な還元が見えにくい。久元市長は500 KOBE ACCELERATORに対する市民への認知や理解については途上だとしたうえで、まずはUrban Innovation KOBEが市民へのメリットを打ち出せるとする。


 Urban Innovation KOBEは、サンフランシスコ市が「Startup in Residence(https://startupinresidence.org/program/)」として始めた取り組みをベースにしたもの。行政側から現実にある課題を提示して、スタートアップ企業に課題解決の手法を提案してもらい、市民向けサービスとして一緒に実装するというものだ。


 Urban Innovation KOBEでは、2018年度下期には6つのテーマを掲げて地域社会の課題解決を目指している。これにより行政サービスのレベルアップを図れるほか、行政側にもメリットがあると久元氏は言う。「部課などの縦割りの中で行政サービスを考えるのではなく、スタートアップの皆さんと侃侃諤諤(かんかんがくがく)の議論をして新しいサービスを考えます。結果として、市民の皆さんには今までなかった新しい行政サービスを提供できるようになるのです」

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ネット社会で喪失してきた“顔が見える地域社会”を復権

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