ヒトの「食べる・眠る・働く」に関するデータを集めて統合的に解析し、それぞれの相関関係を見つけ出す――。ヒューマノーム研究所の瀬々 純社長と井上 浄取締役へのインタビュー。後編では、彼らがこの研究所設立に託した思いを掘り下げていく。

ヒューマノーム研究所が生まれるまで

少し遡りますが、ヒューマノーム研究所立ち上げのいきさつを聞かせてください。


井上氏 もともとは、2002年にリバネスを立ち上げたメンバーで、「こんなことがいずれできたらいいね」と話していたことがきっかけです。リバネスは理系の大学院生15人で立ち上げた会社で、小中高校生向けの教育支援や研究者のキャリア形成支援、大学発ベンチャーの創業支援など幅広いサービスを提供しています。


 意図したわけではありませんが、創業メンバーの15人の大半が生命科学の研究者でした。当時はバイオベンチャーブームで、日本でも年間100社くらいのベンチャーが立ち上がっていました。


瀬々氏 僕はリバネスの創業には直接関わってはいないのですが、友人が何人もリバネスに関わっていて、リバネスのこともよく知っていました。僕は当時から情報科学と生命科学の両方が大好きで、バイオインフォマティクス(生命情報科学)を研究していました。かつては大学で、今では産総研(産業総合研究所)で研究も続けています。


井上氏 そのころはヒトゲノム計画が進行中で、コンピュータを使った本格的なゲノム解析の時代の幕開けを感じていました。その時代に、瀬々とよく、コンピューティングで生命科学のどんなことが分かるようになるだろうと話をしていました。


瀬々氏 生命科学の研究者は、だいたい自分が好きなテーマを持っています。リバネスのメンバーもみなそれぞれ尖った研究をしていて、井上なら免疫ですし、睡眠や血液を調べている研究者もいました。そういうなかで僕は、データを集めて統合して解析したいとずっと言っていました。生命科学を情報科学の視点で捉えたくて、そういう研究を続けてきました。


井上氏 瀬々とも、「みなの研究で分かったことを掛け算したら面白いね」と当時からよく話していたんです。とはいえみなまだ大学院生ですから、リバネスを運営しながら各人が自分の研究に突き進んでいました。メンバーが学位をとって研究者になり、ベンチャーと二足のわらじでリバネスを10年以上続けてきました。僕もリバネスとヒューマノーム研究所の経営に携わる一方で、大学で教員・研究者もしています。


 そういう我々だからこそ、技術を持った研究者の創業支援ができるだろうと「テックプランター」というプログラムを始めました。この流れのなかで生まれてきたのが、便から腸内細菌を調べるメタジェンや、睡眠を研究するニューロスペースなどのベンチャーです。リバネスの仕組みの中から兄弟分のようなバイオベンチャーが生まれてきて、彼らが自分たちの分野に特化して質と量の両面で、ものすごいデータを取れるようになってきました。その状況を見て、リバネス創業当初から語り続けてきたことが、今なら具現化できると確信しました。そのデータを誰が統合解析するのかとなれば、適任者はもう一人しかいません。瀬々に「ついにこの時代が来たね」と話をしてヒューマノーム研究所設立に至りました。


瀬々氏 データサイエンス全般に言えることですが、コンピュータを扱えれば一人でできそうなイメージがありながらも、現実には絶対に一人ではできない学問分野です。データを解析する作業はたしかに一人ですが、データを取ってきてくれる人がいないと何もできない。しかも、それぞれの専門家でないといいデータは取れません。腸内細菌と睡眠の専門家がいいデータを取ってきてくれるから、それを統合解析する研究もできるようになるわけです。


ヒューマノームという言葉は井上さんの発案とうかがいましたが、どういういきさつで生まれた言葉なのでしょうか?


井上氏 考えましたよ。僕らがやっている研究は、データを網羅的に解析する、いわゆるオミクス研究です。だから、それを表す名前にしたいなと。ジーン(遺伝子)のオミクス研究がゲノムで、メタボライト(代謝産物)のオミクス研究がメタボロームで……。生命科学のさまざまな分野のデータを集めて知りたかったのは人間そのものだったので、それならヒューマンに「オーム(-ome、総体を表す接尾語)」をつけてヒューマノームだなと。


 それも、人間集団の平均値や統計データではなく、個人にフォーカスを当てて、その人の中で何が起きているかが見えてくれば、そのベクトルを足し合わせることで、人間がトータルでどこに向かって行くかも分かるはずだと。そういう思いをこの名前に込めました。


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