「このトマトは旨みの中に甘みがあっておいしいですよ」。マクタアメニティの代表取締役・幕田武広氏は、取材のために持参したトマトを、タブレット端末のカメラで撮影してこう説明する。同社は、福島県伊達市に本拠を置く。スマートフォンやタブレット端末のカメラで野菜や果物を撮影すると、そのおいしさを瞬時にグラフ化する「おいしさの見える化」サービスをAI(人工知能)を使って実現した。


 同社が開発したのは、人間の目では分からない微妙な色の違いから農作物の味を診断するサービスである。使い方はいたって簡単だ。黒い布地を背景に野菜や果物を置き、専用アプリを搭載したスマートフォンやタブレット端末のカメラで撮影し、解析ボタンを押すだけ。しばらくすると、解析結果が画面にレーダーチャートとして表示される。


 チャートには、甘味、塩味、苦味、酸味、旨味の5種類の分析結果が表示されるほか、「糖度約6.9%。やや甘い。旨みの中に甘みがあります」といった解説も付加される。

レーダーチャートで示される“おいしさの解析結果”の例(撮影:筆者)

安売り競争に一石

 「この仕組みを使えば、生産者は出荷する農産物のおいしさを具体的にアピールできます。流通・小売店では、おいしさを生かしたレシピを消費者に提案することもできるでしょう」。幕田氏はこう説明する。


 幕田氏は元々、農業分野でのSCM(サプライチェーン・マネジメント)を柱として、福島県の農産物を首都圏に流通させる事業を展開してきた。このとき疑問をいだいていたのが、形と大きさで価格が決まってしまい、形が悪くて小さいものは安売り競争に巻き込まれてしまうこと。この状況をなんとか変えたいという思いがあった。


 「おいしさの見える化」の研究に着手したのは約10年前のこと。きっかけは、色解析で味を診断するというアイデアを持っていた山形大学学術研究院の野田博行准教授との出会いだった。幕田氏のところへ野田氏が話を持ち込んだ。幕田氏は、当時を次のように振り返る。


 「サプライチェーンの中にこの技術を取り込めば、生産農家の競争力が増すと考えました。農業SCMをビジネスとしていたからこそ、おいしさの見える化に着目しました。ただ当時は、分析できる基礎データが乏しく、なかなか話が先へ進みませんでした」


 この状況を一変させたのが2011年の東日本大震災だった。地元福島県の農産物を首都圏に仲介してきた同社は大きな打撃を受けた。この状況を打開するために、自社の事業の棚卸しを実施。そこで自社で保有していた「おいしさの見える化」技術が再浮上した。


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